夕凪の街 桜の国

2007年作品
監督 佐々部清 出演 田中麗奈麻生久美子
(あらすじ)
昭和30年代前半の広島。小さな設計事務所で事務員として働く平野皆実(麻生久美子)は、13年前の原爆により父と妹を失い、今は母親と2人でスラム暮らし。職場の同僚の打越から好意を寄せられるが、被爆時の体験から自分だけが幸福になることに躊躇する皆実は彼の気持ちに素直に応えることができない….


こうの史代の漫画の映画化。相当原作に忠実に映画化されており、映画の方も「夕凪の街」と「桜の国」のパートに分かれている。

特に「夕凪の街」の方はほとんど原作どおりといっても良いくらいの内容なんだけど、ちょっと疑問に思ったのは皆実の被爆時の体験内容が変更されている点であり、漫画の方にはあった“自分が生き延びるために多くの犠牲者を見殺しにした”というエピソードが映画では省略されてしまっている。

すなわち、(まあ、止むを得ないこととはいえ)自分も死者に対しては加害者側の一員であるというのが漫画版における皆実の認識であり、ここのところを省略してしまっては映画版でも採用されている“「死ねばいい」と思われても仕方のない人間に自分がなってしまった”という彼女のセリフの意味が十分に理解できないのではないだろうか?

一方、舞台を現代に移した「桜の国」は、漫画ではさらに2部構成になっていたものを一つのストーリーにまとめており、(漫画を読んでいない人にはどうだったかは分らないが)ちょっと複雑な人間関係を割とわかりやすく描いていたように思えた。まあ、ドラマ性という点では「夕凪の街」に全然敵わないものの、皆実の姪にあたる石川七波(田中麗奈)が被爆二世という自分の境遇を受け入れるというラストは「夕凪の街 桜の国」全体の結論になっている訳であり、やはり感動的。

皆実役の麻生久美子は、最初見たときはこうの史代の描く漫画のヒロイン役にピッタリと思ったんだけど、ちょっとイメージが儚さ過ぎて「夕凪の街」後半の悲劇的展開があらかじめ予想できてしまうところが大きな難点。ここは、やっぱり田中麗奈に皆実と七波の二役をやらせるべきだったと思う。(映画の中でも、七波と皆実がちょっと似ているというセリフがある。)

ということで、出ている女優さん達が皆さん素敵なので一見の価値はあるものの、正直、完成度からいえば漫画版に相当及ばない。それと、あまり原作に忠実すぎるというのもちょっと考えもので、何か漫画版とは違ったメッセージが付け加えられていても良かったかなと思いました。