おかあさん

1952年作品
監督 成瀬巳喜男 出演 田中絹代香川京子
(あらすじ)
福原家の長女である年子(香川京子)は、父の良作と母の正子(田中絹代)、兄の進、妹の久子そして従弟の哲夫との6人暮らし。生活は貧しいが、家族が懸命に働いたおかげで、戦前に営んでいたクリーニング店をようやく再開することができた。しかし、結核で療養中だった進の死に続き、家族からポパイと呼ばれるほど元気だった良作までもが重い病の床に臥せってしまい、正子は女手一つで家族と店の両方の面倒を見ることに….


日経新聞の「私の履歴書」欄で、先日から香川京子の連載が始まったのを記念して。

講談社発行の全国児童綴り方集「おかあさん」がベースになっているということで、本作も年子によるナレーション代わりの作文の朗読から始まる。まあ、内容的には、家族のために身を粉にして働く母親の姿を描いたもので、時節柄、いわゆる母モノ映画の系列に属する作品なんだろうが、作品全体から受けるイメージは決してそう暗いものではない。

そして、久子&哲夫のチビッ子コンビによるストレートな可笑しさとともに、そんな本作の明るいイメージ作りに大きく貢献しているのが香川京子扮する年子の清楚な美少女ぶりであり、また、スラリとした大人びた外観とは大きな落差を感じさせる彼女の無邪気さ、子供っぽさである。

彼女の年齢設定は18歳ということで、何かにつけて“もう子供じゃない”と周囲に主張するものの、年の離れた妹の久子とケンカはするし、近所のパン屋の息子(岡田英次)からのデートの誘いには、何の疑問も抱かずにチビッ子コンビを同行する始末。また、父の死後、母の再婚に関する噂話を耳にすると、寂しさから一人思い悩んでしまう。

1931年生まれの香川京子は、公開当時、既に二十歳過ぎだった訳であるが、本格的なデビューからはまだ2年程しか経っていない上、そんな年子のキャラクターも手伝って、本作での彼女はとっても初々しいという印象が強い。しかし、その彼女が、このわずか2年後に溝口の「近松物語(1954年)」に主演することになるんだから、本当に女というのは解らないものですなあ。

ということで、彼女は、高峰秀子1924年生)よりは随分と年下で、久我美子(1931年生)や岸惠子(1932年生)と同世代。まあ、容姿の面では決して彼女らに引けは取らないが、バリバリの主演というより、準主演クラスのときにキラリと光るという、ちょっと不思議な存在感を持った女優さんです。