高峰秀子の自伝風エッセイ。
彼女が北海道で生を受けてから30歳で結婚するまでの半生が綴られており、プライベートでは支配欲の強い養母との確執なんかが克明に描かれているんだけど、やっぱり興味をひかれるのは当時の映画関係者に関するエピソードだろう。
何といっても6歳の頃から映画に出っ放しということで、彼女と一緒に仕事をした監督、俳優、原作者等の方々は正に多士多才。監督だけでも山本嘉次郎、成瀬巳喜男、木下恵介、小津安二郎といった日本の映画黄金時代を代表する名匠の方々の仕事ぶりが生きいきと描かれており、とても面白かった。あ、それともう一人、黒澤明も意外なシチュエーションで登場します。
彼女自身がさかんに悔やんでいるように、正式な教育を受けていないということもあって、その文章は洗練されているとは言い難く、読んでいてちょっと戸惑うような表現もあちこちに出てくるんだけど、そこがまた何ともユニークな魅力になっているのは彼女の人徳の故なんだろう。