残菊物語

1939年作品
監督 溝口健二 出演 花柳章太郎、森赫子
(あらすじ)
歌舞伎役者の尾上菊之助花柳章太郎)は、名人といわれる養父五代目菊五郎のおかげで人気はあるものの、実はまったくの大根役者。そんな菊之助に親身になって忠告してくれる女中のお徳(森赫子)に恋心を抱くが、身分違いの恋が周囲に認められるわけもなく、お徳はヒマを出されてしまう。怒った菊之助は五代目菊五郎の跡継ぎという恵まれた地位を捨て、単身大阪に新天地を求めたが….


溝口健二の監督作品を見るのは、恥ずかしながらこれがはじめて。戦前の作品ということで、タイトルに「・・・画映竹松」という文字が現れたときにはちょっと不安になったが、大丈夫。とてもおもしろい作品だった。

ストーリーのほうは単なるメロドラマなんだけど、デキた女房とダメ亭主という取り合わせはいつ見てもおもしろい。考えてみると、こういうパターンってあんまりハリウッド映画では見られないよね。イタリアあたりなら似たような作品がありそうだけど、妻の役割がほとんど母親的ってあたりが我が国の特徴かなあ?

ということで、通俗的といわれれば全くそのとおりで、ラストもお約束どおりの展開。それにもかかわらず、見る者の心を掴んで放さないのは、やはり原作の良さなんだろう。この後、’56年(長谷川一夫淡島千景)と’63年(市川猿之助岡田茉莉子)の2度にわたってリメイクされているらしい。

初めてお目にかかる溝口の演出は、カメラの長回しと引き気味の構図が印象的。特に、作品の前半では役者のアップがほとんど無く、主役の表情すら良く判らないくらいなんだけど、反面、八畳くらいの和室のシーンであっても画面に奥行きを感じさせるあたりは流石です。こういうのって、やはり舞台の影響なのかなあ。実際、この作品もすべてセット内で撮影されているのだと思う。

出演者の方は、菊之助の友人“福ちゃん”役で出てくる高田浩吉以外は、主役の二人を含め全然知らない人ばかり。うーん、もっと勉強が必要だね>俺