1955年作品
監督 溝口健二 出演 市川雷蔵、大矢市次郎
(あらすじ)
平忠盛(大矢市次郎)は、朝廷から命ぜられた海賊征伐を苦戦の末果たして京に凱旋するが、武士階級の台頭を快く思わない藤原一族の進言により、褒賞すら与えて貰えない。そんな武士への取扱いに不満を持っていた忠盛の長男清盛(市川雷蔵)は、ある日、ふとしたことから自分が白河上皇の落胤であるという噂を耳にする….
TSUTAYAでレンタルできる溝口作品も底を尽きつつある状況で、あまり選り好みも言っていられなくなってきた。
さて、吉川英治原作の「新・平家物語」は大映で3作品が制作されており、本作はその記念すべき第一作目。平安時代の末期、市川雷蔵扮する平清盛が次第に頭角を現していく過程を描いており、大規模なオープンセットや大勢のエキストラ等、大作の雰囲気は十分なんだけれど、見終わったときの感想は“ちょっと中途半端”かなあ。
海賊征伐とか比叡山との抗争の話題は出てくるんだけど、いずれも肝心の合戦シーンは登場しないため、俺みたいな単純な観客はこの辺りでちょっと欲求不満気味。最後の頃になってやっと比叡山の僧兵が大挙して登場し、“さーて、いよいよ”って思って見ていたところ、物語はここから相当期待ハズレの方向へと展開してしまい、結局、最後まで合戦シーンは無しのまま。
まあ、この展開に関しては後のほうで“僧兵たちの迷信”という説明があるんだけれど、それならそれであらかじめ彼等の迷信深さを観客に印象付けるような伏線を張っておくべきで、その辺の配慮を欠いているために、本来、クライマックスとなるべきシーンがかなり説得力に欠ける展開となってしまっている。
出演者のほうでも、市川雷蔵のゲジゲジ眉毛や木暮実千代(=清盛の母親役)の胸元が大きく開いた衣装等、溝口作品にはちょっと相応しくない様相が目立つ。理由はよくわからないけど、ひょっとしたらプロデューサーの永田雅一の趣味なのかなあ。
ということで、本作公開当時、溝口は57歳で翌年には亡くなっている。おそらく決して本調子ではなかったんだろうけど、美しい映像の随所に彼らしい端正な構図を見て取ることができ、その辺りは流石に大したもんです。