1954年作品
監督 溝口健二 出演 田中絹代、久我美子
(あらすじ)
京都島原の廓にある老舗井筒屋の女将初子(田中絹代)には、東京の音楽学校でピアノの勉強をしている雪子(久我美子)という一人娘がいたが、その雪子が自殺未遂を起こしたために急遽実家に連れ戻すことになった。自殺の原因は結婚の約束をしていた恋人に振られたためとのことであったが、その背景には井筒屋の営む商売の影響があった….
「祇園囃子(1953年)」の翌年に公開された作品。同じ京都を舞台にした作品であるが、祇園と島原の違いのせいか、本作のほうが“売春”の雰囲気が色濃い。
7人いる井筒屋の太夫のうちの一人が無理を重ねた末に病死してしまう等、作中でも“太夫”という華やかなイメージからはちょっと程遠い彼女らの実生活の一面が描かれているが、物語のほうはどちらかというと一人の青年医師を巡る初子&雪子親子の確執のほうがメインになっている。
で、“すべてはその青年医師の卑劣さが原因”みたいな感じで親子が仲直りをし、雪子が井筒屋の若女将として立派に母親の後を継ぐ・・・みたいな雰囲気でめでたくハッピーエンドかと思いきや、ラスト近くに再び太夫たちの救いのない現状を嘆く痛烈なセリフが放たれ、観客を一気に宙ぶらりんの状態に引き戻して作品は終わる。
まあ、この“親子の確執”と“太夫たちの置かれた現状”という二つの問題が上手く絡み合っていないというのは本作の脚本上の弱点なのかもしれないが、前者の問題が解決した直後に解決不能の問題として後者を提示したことの効果はバツグンであり、なんとも印象深いラストになっている。これって、もしかしたラストを丸くまとめ過ぎた前作「祇園囃子」への反省があるのかもしれないなあ。
主演の田中絹代は、やり手の女将と娘思いの母親、そして若い男に狂う哀れなオバさんという3つの顔を持った役を好演しており、やっぱり彼女はちょっとダークなところがある役の方が向いているなあと改めて思った。
また、その娘役に扮する久我美子は、ショートヘアーに白いブラウス&長めのスカートと「ローマの休日(1953年)」のオードリー・ヘップバーンそのもののお姿で登場する。公開時期も近いので大いに意識したんだろうけど、意外にも(?)これがなかなかお似合いでした。