地獄門

1953年作品
監督 衣笠貞之助 出演 長谷川一夫京マチ子
(あらすじ)
平康の乱で手柄をあげた盛遠(長谷川一夫)は、騒動の最中に知り合った袈裟(京マチ子)という女の美しさに心を奪われ、論功行賞の場で平清盛に彼女との結婚を願い出るが、彼女には渡辺渡という御所侍の夫がいることが判明し、盛遠はその場の笑いものになってしまう。しかし、どうしても袈裟のことが忘れられない盛遠は、機会あるごとに渡と対立するようになり….


1954年のカンヌ国際映画祭で見事グランプリに輝いた作品。

開始早々、題名と一緒に“イーストマン・カラー”という文字が大きく映し出されることからも分かるとおり、本作は大映初のカラー映画であり、その映像の美しさは現在でもまったく色褪せることはない。平安時代という時代設定を含め、海外の映画コンペを相当意識している印象が強いのだが、幸いなことに決して物珍しい映像を楽しませるだけの作品にはなっていなかった。

主人公の盛遠は、平康の乱の首謀者の一人である自分の兄の誘いにも乗らず、主君である清盛への忠義を尽くすというキャラクターであるが、夫のある人妻を愛してしまったときにはそのひたむきさがかえって災いとなり、彼女以外は何も目に入らなくなってしまう。そんな彼が、次第に狂気の世界へと足を踏み入れて行く様子はなかなか興味深い。

夫の身代わりとなった袈裟をそうとは知らない盛遠が誤って切り殺してしまうというラストも決して悪くはないのだが、そこに至るまでの袈裟の心境の変化みたいなものがいま一つ不明瞭であり、彼女が夫の渡に相談しなかったのは、おそらく彼女にも盛遠に魅かれていた部分があったためだろうと想像はできるものの、映画を見ただけでは良く解らなかった。

主演の長谷川一夫京マチ子はともに存在感のある演技を披露しており、特に京マチ子の美しさは実直な武士を狂気に走らせるだけの説得力を十分に持っていると思う。また、彼女の夫となる渡辺渡には山形勲が扮しているのだが、その晩年の役どころからは想像もつかないような善人ぶりがとても面白かった。

ということで、黒澤の「羅生門(1950年)」が1951年のヴェネチア国際映画祭でグランプリを受賞して以降、本作のように海外の映画コンペを意識した作品が製作されるようになる訳であるが、その真意(=国威発揚、黒船効果?)は別にしても、海外に通用する映画を作りたいという現場サイドの意欲に関しては十分評価できると思います。