雪夫人絵図

1950年作品
監督 溝口健二 出演 木暮実千代上原謙
(あらすじ)
華族信濃家の一人娘である雪(木暮実千代)は、成金の直之を養子に迎えて結婚するが、彼は結婚後も家庭を顧みることなく放蕩の限りを尽くすのみ。一方、彼女も幼馴染で琴の師匠をしている菊中方哉(上原謙)と互いに惹かれあっていたが、なかなか離婚に踏み切るまでの決心はつかない。そんなとき、東京の本邸に住む雪の父親が亡くなってしまい….


久々の溝口健二作品は、「お遊さま(1951年)」の前年に公開された作品。

舟橋聖一の同名小説が原作とのことであるが、これがなかなか耽美的というかエロチックな内容の作品らしく、まあ、現代のベッドシーンのような直接的な描写こそ避けられているものの、ちょっと子供には見せたくないような雰囲気の作品である。

しかも、そんな雪、直之、そして方哉の三角関係を、田舎から出てきたばかりのおぼこ娘である浜子の視線をとおして描くというあたり、もう、大人というか、もはや老人のイヤらしさ満点といった念の入り様であり、本作に比較すれば谷崎潤一郎原作の「お遊さま」なんて、全然お上品なもんである。

まあ、登場人物の心理描写はやや平板気味で、ラスト近くになって明らかになる直之の本心の描き方なんかも十分とは言えないと思うし、浜子や誠太郎といった脇役の使い方にも不満がない訳ではないが、その完成されたとは言い難い脚本の微妙な“乱れ”が雪夫人たちの性的な“乱れ”に妙にマッチしているようで、(恥ずかしながら?)見ていてとても面白かった。

主演の木暮実千代は公開当時32歳ということであるが、溝口作品に出ている彼女はやはりとても魅力的であり、演技が上手いとか拙いといったレベルを超えた存在感を見せてくれる。一方、彼女の引立て役っていう訳ではないが、浜子役の久我美子も当時まだ10代とは思えない程のしっかりとした演技を披露しており、なんと入浴シーンにも挑戦している。

ということで、監督の溝口にとっては、まだ完全復活とはいえないまでも、戦中から戦後にかけての低迷期を脱するきっかけとなった作品ということはできるんじゃないかと思う。今この作品をリメイクしたら、ちょっと興味深い作品になるんじゃないかと思うんだけど、うーん、木暮実千代に代わる適当な女優さんを見つけるのが大変かなあ。