小早川家の秋

1961年作品
監督 小津安二郎 出演 中村鴈治郎原節子
(あらすじ)
造り酒屋を営む小早川家の当主である万兵衛(中村鴈治郎)は、長女の文子の婿に店を任せて今は自由気ままな生活を送っている。そんなとき、次女の紀子と亡くなった長男の嫁の秋子(原節子)の二人に相次いで見合いの話が持ち上がるが、万兵衛自身も以前に馴染みだった女性と久しぶりに再会し、彼女の家に足しげく通うようになる….


小津が、遺作である「秋刀魚の味(1962年)」の前年に公開した作品。

例によって、原節子扮する秋子は独身であり、彼女が森繁久弥扮する磯村と見合いをするシーンから始まるもんで、てっきり秋子の再婚話が中心になってストーリーが展開するのかと思っていたら、実は老いらくの恋を含む万兵衛の“晩年”を描く方に重点が置かれた作品だった。

万兵衛は、若い頃から遊びの方も盛んだったようで、今は亡き彼の妻のことを散々泣かせてきたらしい。それを知っている長女の文子は、つい万兵衛の女遊びに厳しくなってしまう訳であるが、実際、彼が亡くなってしまうと、小早川家の当主としての彼の存在の重さを改めて思い知ることになる。

この万兵衛に扮している中村鴈治郎は、小津作品では「浮草(1959年)」に続く主演であるが、怒ったり、笑ったり、拗ねてみたりとその多彩な表情の変化が見ていてとても楽しい。また、セリフ回しも例の小津調ではないため、そのあたりが本作にいつもの小津作品とはちょっと違った雰囲気を与えている。

さらに、小早川家の三姉妹(=一人は義理だけど。)に扮する原、新珠三千代(文子役)、司葉子(紀子役)の競演も本作の見どころの一つであり、皆さん、三者三様でとてもお美しい。文子役の新珠は、役柄からするとちょっと線が細いかという気もするが、まあ、あまり深刻な雰囲気にはしたくなかったのかも知れないね。

ということで、特に後年の小津作品には当たりハズレが少なく、その意味では安心して見ていられるんだけど、ちょっと物足りない感じが残るのも否定できない。彼は、本作が公開された2年後、60歳の若さで他界してしまう訳だけど、もし、長生きしていたらもっと新しい分野にも挑戦したのかなあ?