河内山宗俊

1936年作品
監督 山中貞雄 出演 河原崎長十郎中村翫右衛門
(あらすじ)
居酒屋に居候する河内山宗俊河原崎長十郎)は、ふとしたことからヤクザの用心棒をしている浪人の金子市之丞(中村翫右衛門)と意気投合。弟が背負い込んだ300両の借金のために身売りを迫られる甘酒屋の娘お浪を救うため、大名から大金をだまし取るべく金子の情報を基に一芝居打つことになる….


夭折した名監督、山中貞雄の現存する3作品の中の一本。

講談「天保六花撰」でも有名な稀代の悪僧河内山宗俊を主役に持ってきているんだけど、ストーリーは映画用に大幅に書き換えてあり、相当スケールは小さくなっているものの、その分、親しみやすい内容になっている。

こちらの河内山宗俊も一応悪党ではあるんだけれど、その悪事の内容はイカサマ師の上前を撥ねたり、無銭飲食をしたりと、まあ、なんか可愛いもの。しかし、何かのときにキッと相手を睨む目つきなんかにはやっぱり只者ではないっていう雰囲気が漂っていて、周囲のヤクザもんからは一目置かれているような存在。

そんな彼が、なんの義理もない甘酒屋の娘お浪を救うため、最期は自分の命までかける訳であるが、この荒唐無稽とも思えるストーリーが見ていて違和感なく納得できてしまうあたりは演出と脚本の素晴らしさによるものなんだろう。前半はコメディ風なゆる〜い展開にしておいて、いざ事が始まると一気にラストまで突っ走るという構成は、結果的には悲劇なんだけれど、見ていてとても面白かった。

主役の河原崎長十郎は、溝口健二の「元禄忠臣蔵(1941年)」で大石内蔵助を演っていた人。やはり貫禄充分だけど、こっちのほうが随分と親しみやすい感じで好感が持てる。相棒の金子市之丞に扮する中村翫右衛門のほうも「元禄忠臣蔵」に出ていたらしいけど、本作ではコメディリリーフをそつなくこなしている。

そしてそんな彼等が命がけで守ろうとするお浪に扮しているのが公開当時16歳の原節子な訳であるが、その鈴を転がすような声を含めて正に“可憐”の一言。彼女は主人公たちが失いかけている善とか美とかの象徴的存在であり、色恋抜きで命をかける彼等の気持ちは見ている俺にも良ーく理解できました。

ということで、以前に見た「丹下左膳餘話 百萬兩の壺 (1935年)」に引き続きこれで山中貞雄の残した3作品のうち2作品を見た訳だけど、共になかなかの出来で大満足。まあ、彼の評価についてはいろいろあるんだろうけど、才能のある人だったことは間違いなさそう。最後の1本である遺作の「人情紙風船 (1937年)」を見るのがとても楽しみになりました。