加藤周一著作集8「現代の政治的意味」

1979年というから、ちょうど俺が就職した頃に出版された全15巻(予約するとオマケが1冊ついてくるので、実際は全16巻)の著作集。気が向いたときに読んでいるのだが、やっとこれで半分読破したことになる。

加藤周一の魅力は、リベラルで論旨明快な思想とともに、その美しい文章にあるのは今更言うまでもないだろう。詩人としての顔も併せ持つ作者のリズム感のある文章を読んでいると、驚くべき広範な知識から語られる高邁な論理が無理なく頭の中に入ってきて、ちょっとは賢くなったかなぁなんて気分に浸れてとても楽しい。(でも、読み終わってみると、これが見事に頭から抜け落ちているんだけどね。)

フランス文学の古典なんかがテーマのときは、ただただ彼の博識ぶりに感心するだけなのだが、この第8巻は戦後の政治問題が中心なので割と取っつきやすい。終戦直後の希望に満ちあふれた文章が、冷戦、日米安保ベトナム戦争などを経て、次第に厳しい内容に変化していく様子は、読んでいてとても興味深かった。

まあ、一番新しい論文でも30年以上前のものなのだが、これが結構現代の政治状況にも通じるところがあるのは、作者の慧眼もさることながら、日本の政治や文化が進化していないということも大きいんだろうね。ベトナム戦争のときの政府の対応ぶりについて書かれた文章を読みながら、今のイラク戦争への対応を考えたりしてみると、なんかそんな気がしました。