丸山眞男セレクション

杉田敦という政治学者が選んだ丸山眞男の論文集。

先日読んだ「後衛の位置から」が量的に物足りなかったので、丸山の明晰な文章をもうちょっと味わってみたいと思って手にしたのが本書。本棚から昔読んだハードカバーを引っ張り出してきても良かったのだが、こちらには未読の論文も数多く集録されており、文庫版ということで寝転がってでも読めるのが大きな魅力。

さて、収められている14編の論文は最も新しいものでも50年以上前に発表されたものなのだが、やはり読んでいると現在起きている出来事を解釈する上で重要なヒントを与えてくれるものばかりであり、改めて丸山の慧眼ぶりに驚かされる。

国民不在のまま行われた明治維新の限界とそれに続く我が国の近代化が内包せざるを得なかった諸問題、そしてそこから生まれた心理的要因が戦前のナショナリズムの高揚の中でどのように機能したのか等々に関する分析はもはやお馴染みのものであるが、そこで批判的に取り上げられている「國體」観念が依然として健在であることは今の天皇退位に関する(国民不在の)議論を聞いていても明らかであり、現政権の掲げる「美しい国」という空虚なスローガンもその焼き直しに過ぎないのだろう。

また、「超国家主義の論理と心理」における“「主観的内面性の尊重」の否定”という指摘は極めて重要であり、本来、良心によって判断されるべき問題が、靖国従軍慰安婦外交問題、森友や加計は与野党間の問題といった具合にすぐに政治問題化してしまったり、また、共謀罪に対する拒否反応が比較的弱いと感じられることの原因になっているのかもしれない。

その他にも、「三たび平和について」を読んでいると北朝鮮のミサイル発射に対する我が国の過剰反応がいかに常軌を逸したものであるかが良く分かるし(=だいたい核廃絶を前提にしない核不拡散には全く説得力がない。)、「現代における人間と政治」を読んでいるときには辺野古で反対運動を続けている方々の懸命な姿が脳裏から離れなかった。

ということで、アンケート調査等においていまだに現政権を支持し続けている人には「政治的判断」がオススメ。仮に不支持派が大勢を占めたからといって現状で野党が政権を握るようなことはあり得ないのだから、森友・加計問題に対する政府の対応や共謀罪の審議過程等に疑問を感じている人は、安心して不支持の意思表示をすることがリアルな政治的判断なのだと思います。