星を継ぐもの

J.P.ホーガンによるSF作品。1977年に発表された作品であるが、世評が高く、以前から気になっていた。
J.P.ホーガンの作品を読むのも初めてで、何故か、「ハードSFの人」という先入観を抱いていたのだが、読んでみたらSFミステリであった。ミステリといっても、別にロボット刑事が殺人犯捜しをする訳ではなくて、冒頭、死体は出てくるが、何とそれが5万年前に月面で死亡したものであることがわかり、科学者たちが様々な仮説を立ててその謎の解明に挑んでいく、といった内容。

最初に驚いたのは、その楽観的な未来観。舞台は2020年代後半であり、作品の中では、すでに月面に基地が築かれており、木星の衛星まで有人飛行が成功している。うん、確かに70年代にはみんなそう思っていたよなぁー。でも、現実のほうはというと、ソ連崩壊後、唯一の期待の星であるアメリカは戦争に忙しくて、とてもそれどころではない。で、ここに描かれているような世界が実現するまでには、あと軽く数百年はかかりそうな状況、というか、ことによると実現しない可能性も大? そう考えると、題名の「星の継ぐもの(=人類)」というのが何とも皮肉に思えてきてしまうのが寂しい。(それとも、この題名は、現在の人類の行く末をルナリアンに重ね合わせた作者の願望、と読むべきなのか?)

まぁ、この違和感は別に作者の責任ではないので置いておくとして、この作品に対する最大の不満は、最初と最後に名前が出て来る「コリエル」の取扱い。俺は普通にコリエルはガニメアンだと思っていたので、遺品とともに超巨大な大腿骨が出てこないのを不思議に思った(=謎の提示の仕方として不十分。遺品だけなら誰か別の者が運んできただけかもしれないじゃないか。)のだが、後でネットで調べてみたら、なんとコリエルはルナリアンなんだそうだ。えーっ、信じられない! あれだけコリエルの超人的パワーを強調しておけば、誰だってガニメアンだと思い込んじゃうと思うんだが。

それと、個人的には、ミステリの最大のポイントになるべき“月に関する謎”の答えが比較的早い段階で判ってしまったのが、大きなマイナスポイント。まぁ、誰だって、アシモフの科学エッセイで「月の異常さ」に関する予習を十分にしておけば、謎が提示された段階でピンとくると思う。

ということで、これ以外にも小惑星ミッシング・リンクなど、SFファン好みのネタが詰まっており、それなりに楽しめたが、続編(なんと、5部作まであるそうだ。)はたぶん読まないと思う。