ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

2013年作品
監督 スティーヴン・ダルドリー 出演 トム・ハンクストーマス・ホーン
(あらすじ)
最愛の父トーマス(トム・ハンクス)が犠牲になった9.11アメリ同時多発テロから一年が経ったある日、一人息子のオスカー(トーマス・ホーン)は父の遺品の中から一本の鍵を見つけ出す。それが入っていた封筒には“ブラック”という名前が記されており、その人なら何を開ける鍵なのか知っていると考えたオスカーは、ニューヨーク中に住むブラックという名前の人々を計画的に訪ね始める….


寡作なスティーヴン・ダルドリーの監督による9.11をテーマにしたホームドラマ

オスカーは、過去にアスペルガー症候群の検査を受けさせられたことがあるというくらい内向的な性格の少年であり、知らない人々と会話することが大の苦手。そんな彼と地域社会とのパイプ役になっていたのが父親のトーマスであり、フィールドワーク的な遊びを取り入れることによって自分の世界に閉じこもりがちなオスカーを何とかコミュニティに馴染ませようとしていた。

結論を先に言ってしまえば、本作は、そんなオスカー少年が、父親抜きで直接コミュニティと対峙出来るようになるまでの成長過程を描いた作品なのだが、その描き方がちょっぴり“意地悪”なところが特徴なのかなあ。ブラックさん探し以外にも、生前の父親から指示されたニューヨーク幻の第6区探しや謎の間借り人といった魅力的なエピソードの断片がいくつか提示されるのだが、そのジグソーパズルを完成させるための手間は観客に託されており、これが一筋縄ではなかなか上手く嵌まらない。

題名になっている“ものすごくうるさくて、ありえないほど近いもの”というなぞなぞの答えも最後まで明示されることはなく、なかなか先の展開が見えてこない前半部分を中心に、見ていてちょっとだけイライラしてしまうのだが、まあ、ラストまで見続けていれば内容のある立派な作品であることが理解できる。ほとんど出番らしい出番の無かった母親が、最後になって一気に存在感を示すという展開も面白かった。

ということで、“ものすごくうるさくて、ありえないほど近いもの”というなぞなぞの直截的な答えは、金属の軋む音を嫌って父親が生きている間は見向きもしなかった“ブランコ”のことだろう。そんな苦手なブランコも、勇気を出して乗ってみるといとも簡単に青空(≒父親のいる天国)に近付けてしまえる訳であり、それは彼とコミュニティの人々との関係についても同様なのだと思います。