ノマドランド

2020年
監督 クロエ・ジャオ 出演 フランシス・マクドーマンドデヴィッド・ストラザーン
(あらすじ)
企業城下町だったネバダ州エンパイアは工場閉鎖に伴ってゴーストタウン化してしまい、長年、亡き夫とその町で暮らしてきたファーン(フランシス・マクドーマンド)は、当座の家財道具を一台のバンに詰め込んで車上生活の旅に出る。経済的な余裕はないため行く先々で生活費を稼ぎながらの旅になるが、同じ境遇の先輩キャンパーたちは皆親切であり、彼らのアドバイスを受けながら、一見、気楽な旅を続けていた…


今年のアカデミー賞で6部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演女優賞を受賞した作品。

我が国でも劇場公開されたらしいのだが、コロナ禍の影響もあってパスしてしまい、ようやくU-NEXTの有料配信で鑑賞。せっかくなので妻&娘にも声を掛けようかと思ったが、まあ、見て楽しくなるような作品ではなさそうであり、結局、一人寂しく拝見することにした。

さて、Amazonの倉庫や国立公園のキャンプ場などで季節労働(?)に従事しながら旅を続ける主人公の生活は、スタインベックの小説に登場するホーボーたちのそれを彷彿させるものであり、最初は“格差社会の犠牲者たちの悲惨な生活を描くことによって、現在の新自由主義社会を厳しく批判する作品”なのだろうと思って見ていた。

しかし、どうやら主人公が車上生活を選択したのは経済的な理由からだけでは無さそうであり、事実、優しい姉やキャンパーを卒業したデイブ(デヴィッド・ストラザーン)からの同居の誘いには決して応じようとしない。また、特に人間嫌いという訳でもなく、正直、主人公のコミュニケーション能力は俺なんかよりもずっと高そうである。

それでは彼女が車上生活を続ける理由は何なのかと言えば、長年住み慣れたエンパイアの消滅という悲劇が大きく影響していることはまず間違いなさそうであり、おそらく、自らのアイデンティテイの根幹を​なす“過去”の喪失という現実を直視したくないからなのだろう。せめて家族が残されていれば皆で思い出を語り合うことも出来るのだろうが、最愛の夫は既に亡くなっており、子供もいないようである。

まあ、このような生き方を“現実逃避”として批判することも可能ではあるが、高齢者の多いキャンパーたちに現実をやり直すための時間的余裕は残されていない訳であり、家の中に引きこもって悶々としているよりはよっぽどマシなんだろうと思う。

ということで、国土の狭い我が国で本作のような車上生活を続けることは困難だろうが、同じ高齢者の一人として今流行の“車中泊”にはちょっぴり興味はある。しかし、これまでの山歩きの経験からすると一番嬉しいのは“帰宅したとき”になるのは間違いないところであり、まあ、これは幸せなことなのだろうと思います。