2020年
監督 アーロン・ソーキン 出演 サシャ・バロン・コーエン、エディ・レッドメイン
(あらすじ)
大統領選挙を数ヶ月後に控えた1968年8月、シカゴで開催される民主党全国大会にベトナム戦争に反対する多くの若者たちが押し寄せてくる。しかし、市側の非協力的な対応のせいでデモ隊と警察との間に衝突が起きてしまい、双方に多くの負傷者を出す結果へと発展。選挙後、この事件を重く見たニクソン政権は、アビー・ホフマン(サシャ・バロン・コーエン)らデモに参加した各グループのリーダーたち7人を共謀罪などで起訴することに…
“シカゴ・セブン”と呼ばれた実在する被告たちの法廷闘争の様子を描いたNetflix映画。
アカデミー賞の作品賞等にノミネートされていることは知っていたのだが、屋久島旅行等々のことが気に掛かってなかなか視聴意欲が湧いてこない。しかし、アカデミー賞の結果発表の日(=現地時間の25日)は目前に迫っており、その結果を知ってから見るのも申し訳ない(?)ということで、ようやく重い腰を上げることになった。
さて、デモに参加した各グループ間に共謀の事実がないことは事件発生直後の捜査で明らかにされており、また、衝突の直接のきっかけを作ったのは警察側であることは当時の司法長官も認めている。したがって、本件の起訴は極めて筋悪であり、担当を命じられたシュルツ検事もいまひとつ気が乗らない様子。
そんな検察に代わって本作の“悪役”を引き受けているのが裁判官役のホフマン判事であり、傲慢不遜としか言いようのない彼が被告の若者たちを快く思っていないのは最初から明らか。特に目の敵にされるのがブラックパンサー党のボビー・シール(=彼は途中で裁判から除外されてしまうので、シカゴ・セブンの一員ではない。)と、アビー・ホフマン&ジェリー・ルービンのおちゃらけコンビであり、被告の一人であるトム・ヘイデン(エディ・レッドメイン)は、無用に(?)ホフマン判事の怒りを買うのは得策ではないとの判断から、後二者に対して不満を抱いている。
しかし、そんなトムの裁判上の窮地を救うのが(実は昔から彼のことを高く評価していたことが判明する)アビーだったり、真面目で礼儀正しいはずのトムが最後の最後でホフマン判事を激怒させる等々、シナリオはとても良く出来ている。そんな訳で、アカデミー賞の作品賞や脚本賞にノミネートされたのは十分納得できるものの、映像面での工夫はあまり見られず、重厚さにも欠けるということで、まあ、作品賞はちょっと無理だろう。
ということで、本作におけるアビー等の行動を見ていて思い出すのは、「抵抗の形式は、われわれが通常想像するよりはるかに豊かなのだ」というデヴィッド・グレーバーの言葉であり、「人びとはそれぞれ自分自身の行動を決定すべきだが、それでも(自分が認可しえない)異なった選択をする人びとの連帯を保持せねばならない」というのが本作の結論の一つになっているのだと思います。