約束の地、メンフィス ~テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー~

2014年
監督 マーティン・ショア 出演 ブッカー・T.ジョーンズ、オーティス・クレイ
(あらすじ)
“メンフィス音楽を生み出していった伝説のアーティストに集まってもらい、その素晴らしさをもう一度世界に発信しよう”と考えた監督のマーティン・ショアは、ブッカー・T.ジョーンズやオーティス・クレイウィリアム・ベルといった往年の名アーティストたちを名門ロイヤル・スタジオ等に招聘。現役の若手ラッパーたちを交えた貴重なセッションの様子を次々に映像に収めていく…


メンフィスサウンドを代表する往年の名アーティストたちのセッションの様子を収めたドキュメンタリー映画

以前に拝見した「黄金のメロディ マッスル・ショールズ(2013年)」と共通するテーマを扱った作品であり、洋の東西を問わず、現在の音楽に物足りなさを感じている(≒付いていけなくなっている)老人が増えているんだろうなあと思いながら鑑賞。結果は大当たりであり、久しぶりに心躍るような新曲(?)の数々を堪能させて頂いた。

さて、登場する“生ける伝説”的アーティストのうち、若い頃に意識して聴いていたのはブッカー・T.ジョーンズ、オーティス・クレイ、それにステイプル・シンガーズくらいのものだが、インタビュー等を聞いていると“あの曲のオリジナルはこの爺さんが歌っていたのか”というようなエピソードが満載であり、とにかく非常に興味深い内容になっている。

また、「黄金のメロディ~」とは違い、彼らの生のパフォーマンスを楽しむことができる点も高評価の理由であり、セッションに参加した若い共演者に対し、自分たちが受け継いできた音楽の伝統を何とか伝えようとする老アーティストたちの姿勢には思わず感動。そして、そうやって生み出されたパフォーマンスは最高の出来であり、特にラップ・ミュージックとの相性の良さには改めて驚かされた。

さらに、1975年末に一度倒産したスタックス・レコードの盛衰に絡めて当時の黒人差別や公民権運動の問題を取り上げているのも興味深いところであり、“あの頃に比べれば今は相当改善されている”という趣旨の彼らの感想を聞くと、今のBLM運動も決して無駄にはならないような気がする。おそらく数年後には、日米の人権意識の差はとても追い付けないくらい大きなものになっているのではなかろうか。

ということで、本作で紹介されているセッションは全部で9曲だが、それに未公開の3曲を加えたサントラ版CDが発売されているとのこと。早速、Amazonで調べてみたところ、国内盤は売切れだったが、輸入盤は“最後の一点”でぎりぎりセーフだったようであり、今秋は彼らの素晴らしい演奏を聴きながらの山歩きができそうです。