木靴の樹

1978年
監督 エルマンノ・オルミ 出演 ルイジ・オルナーギ、オマール・ブリニョッリ
(あらすじ)
19世紀末、北イタリアのロンバルディア地方にある寒村ベルガモ。貧しい農夫のバチスティ(ルイジ・オルナーギ)は、神父から“長男のミネク(オマール・ブリニョッリ)を学校に通わせるように”と厳しく言い渡されてしまい、渋々ながらもそれに従うことになる。しかし、幼いミネクにとって片道6kmもある学校に歩いて通うのは容易なことではなく、ある日の帰り道、履いていた彼の木靴が壊れてしまう…


カンヌ国際映画祭パルム・ドールをはじめ多くの映画賞に輝いた名作。

実は、これまでにも何度かビデオ等での鑑賞を試みたことがあるのだが、あまりの展開の遅さのために睡魔から逃れることができず、一度も最後まで見終えた覚えがない。しかし、老化に伴って忍耐力だけは向上しているようであり、U-NEXTのラインアップに本作が上がっているのを知って、最後の(?)視聴に挑む!

さて、主な登場人物は寒村ベルガモに暮らす4家族の人々であり、皆そろって地主の所有する共同住宅兼家畜小屋のような建物に住んでいる。土地や樹木、そしてほとんどの家畜は地主の所有物であり、農民たちは収穫の2/3を地主に収めなければならないため生活は苦しいものの、それぞれつましく、時にはしたたかに生きてきた。

まあ、そんな訳で、ストーリー上も特に大事件が起きる訳ではなく、むしろ淡々としたタッチで寒村に暮らす人々の日々の暮らしが綴られていくのだが、実は彼らは常に崖っぷちの上を歩かされている訳であり、大事件が起きずとも、農作業に使う牛が病気になっただけでその生活は破綻の危機に晒されてしまう。

そんなときは神様におすがりするしかないのだが、その結果は様々であり、時には聖水を飲まされた牛が元気を取り戻すこともある。まあ、そんな具合にストーリーは続いていくのだが、決して“貧しい暮らし中のささやかな幸福”がテーマではなく、最後は小作人としての過酷な現実を突き付けられてのバッドエンディング。地主に退居を命じられたミネクの一家が長年住み慣れた家を後にするのに際し、他の家族はかける言葉もなくただ立ち尽くすのみ…

ということで、当時から1世紀以上の時間が経過している訳だが、新自由主義の進展に伴い、我が国でも新たな崖っぷちの上を歩いている人々が急増しているそうである。そんなときに新しい総理大臣に指名されようとする政治家の掲げるスローガンが「自助、共助、公助」というのは、正直、悪夢としか言いようがありません。