ミュージック・オブ・ハート

1999年作品
監督 ウェス・クレイヴン 出演 メリル・ストリープアンジェラ・バセット
(あらすじ)
浮気した夫に逃げられてしまったロベルタ(メリル・ストリープ)は、手元に残された二人の子どもを育てるため、ニューヨークのイーストハーレム地区にある公立学校にヴァイオリンの臨時教師として就職することになる。貧しい家庭が多い地域でクラシック音楽を教えることについては、当初、疑問の声も少なくなかったが、音楽に対する彼女の情熱は次第に周囲の人々の意識を変化させていく….


メリル・ストリープの主演による実話を元にした感動作。

ストーリーは大きく二つのパートに分かれており、前半では、夫に逃げられてすっかり自信を失っていたロベルタが、ヴァイオリンを介した生徒たちとの交流を通して何とか立ち直り、第一回目となるささやかなコンサートを成功させるまでが淡々とした調子で描かれている。

しかし、作品のヤマ場はそれから10年後に設定されており、市の予算削減のあおりを受けて臨時教師の職を失ってしまったロベルタが、周囲の人々の助けを受けながら、ヴァイオリン教室の活動資金を得るためのチャリティ・コンサートを大成功させるシーンが本作のクライマックスになっている。

確かに、会場はカーネギー・ホールだし、多くの一流ヴァイオリニストがボランティアとして参加しているということで、後者のコンサートの方を作品のクライマックスにもってくるのが普通だということは理解するのだが、本作を見て、個人的に最も興味深かったのは、結婚生活のパートナーに逃げられるということが、残された片割れの自尊心をどれほど深く傷つけるかという点であり、その意味では、前者のコンサートの方にももう少し力を入れて描いて欲しかったと思う。

本作に出演するためにヴァイオリンの猛練習をしたという主演のメリル・ストリープは、相変わらず達者なところを見せてくれるのだが、特に凄いと思ったのはロベルタがアイザック・スターン(=本人が演じている。)と二人で会話を交わすシーン。そこでの彼女からはハリウッド女優のオーラは微塵も感じられず、まさに巨匠を前にした公立学校のヴァイオリン教師そのものであった。

ということで、まあ、全体的に上手くまとめられてはいるものの、離婚や貧困といった社会問題への切り込みはいま一つであり、単なる“良い話”で終わってしまっているあたりがちょっと残念。そんなところが、実話をベースにしていることのデメリットの一つなのでしょう。