グリーンブック

今日は、妻&娘と一緒に今年のアカデミー賞で、見事、作品賞に輝いた「グリーンブック」を見てきた。

予告編を見て、俺も娘も公開を楽しみにしていた作品なのだが、アカデミー賞受賞の宣伝効果を狙った興業会社の陰謀によって本国に比べて約4ヶ月遅れての公開。しかし、そんな興業会社の狙いは見事に的中したらしく、ネットで確認した客席の予約状況は異常な出足を見せており、遅れてはならじと慌てて予約を入れてから映画館へ向う。

さて、ストーリーは実話がベースになっているそうであり、ジム・クロウ法がまだ効力を有していた1962年、有名な黒人ピアニストのドクター・ドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)が、白人運転手のトニー・バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)と一緒に黒人差別が色濃く残っているアメリカ南部に演奏旅行に出掛けるという内容。

本来なら、ちょっぴりスリリングなところもある重いテーマの作品になってもおかしくないところだが、監督を務めているのがあの「メリーに首ったけ(1998年)」のファレリー兄弟の片割れということで、殺伐とした雰囲気はあまり感じられず、どちらかというととてもハートウォーミングで明るく楽しいコメディ映画に仕立て上げられている。

勿論、人種差別の問題は本作の最重要テーマであり、常にこのコンビに付きまとい続けるのだが、このドン・シャーリーというピアニスト、9歳のときからレニングラード音楽院で英才教育を受けたという超エリートであり、教養的にも経済的にも当時の一般的な黒人の水準の遙か上を行き、イタリア系白人のトニーでさえ足下にも及ばない。

そのため、彼は黒人の中でも孤立した存在であり、彼の苦悩は白人対黒人といった従来の対立軸からは少し外れたところにある。おそらくそれはとても重要な指摘であり、それを取り上げたこと自体は素晴らしいと思うのだが、残念なことに白人のトニーの側に大きく視点が片寄っているため、この問題が一般的な人種差別の問題の中に埋没してしまっているような気がする。

多分、時間的または地理的な要因によって様々なバリエーションが考えられるのだろうが、ときには人種とか民族といった対立軸がかえって問題の所在を見えにくくしてしまう場合もあるはずであり、本作を黒人でありながらその文化を共有していないドンの側から描いてみれば、また違った見方が広がったように思う。

ということで、そういえばファレリー兄弟には「愛しのローズマリー(2001年)」という佳作もあり、深刻な社会問題をウエルメイドなお話にまとめ上げるのは得意なのかもしれないね。アカデミー作品賞としては少々毒気不足のような気もするが、とても良く出来た楽しい作品であり、マハーシャラ・アリ助演男優賞受賞にも全く異論ありません。