スリ(掏摸)

1960年
監督 ロベール・ブレッソン 出演 マルタンラ・サール、マリカ・グリーン
(あらすじ)
パリの安アパートに一人住まいの青年ミシェル(マルタンラ・サール)は、本で読んだスリの技に興味を抱き、競馬場の人混みで実際に試してみたものの、運悪く張り込んでいた刑事に捕まってしまう。しかし、証拠不十分で釈放された彼はそのときの緊張感が忘れられず、その後もスリ行為を繰り返すようになり、やがて二人の仲間と組んで巧妙なテクニックを身に付けていく…


ドストエフスキーの「罪と罰」をモチーフにしたといわれるフランス映画。

ロベール・ブレッソン初体験”ということで、有名な「抵抗(レジスタンス)−死刑囚の手記より−(1956年)」とどちらを先に見るかちょっと迷ったが、どちらかというと好きなものは最後に残しておく方なので、とりあえずこちらを鑑賞。

さて、孤独なミシェル青年には別居中の病気の老母がいるのだが、その世話は赤の他人に過ぎないジャンヌ(マリカ・グリーン)に任せっきりであり、数少ない友人であるジャックの助言にも耳を貸そうとしない。そんな彼が興味を抱いている唯一のものがスリであり、正に“小人閑居して不善を為す”という故事を地で行くようなストーリー。

しかし、その後の展開は少々迷走気味であり、主人公を一度逮捕した刑事が彼の再犯を阻止しようとしないのは何故か、絶世の美女であるジャンヌがろくでなしの主人公に恋心を抱くようになった理由は、等々の疑問には何も答えないまま、主人公とジャンヌの鉄格子を挟んでの熱烈なキスシーンでまさかのハッピーエンド。

実は、本作の冒頭に「本作は刑事物ではない。映像と音である青年の悪夢の表現を試みている。彼は自分の弱さに負け、スリという冒険を行う。この冒険が奇妙な道筋を経て結びつける二つの魂はこの冒険なくして出会うことは無かった」という解説(?)があるので、実際には見ていてそれ程の違和感はないのだが、これって相当ズルいよね。

ということで、映像的には主人公を含む三人組が披露する華麗なるスリのテクニックが一つの見せ場なんだろうが、公開当時はともかく、今では防犯カメラによる実際のスリの映像を簡単に見られる時代なので、正直、驚きは少ない。途中に出てくるラスコーリニコフの二番煎じみたいな主張もあまり効果的に使われているとは思えず、「抵抗(レジスタンス)−死刑囚の手記より−」を見るのがちょっぴり気が重くなってしまいました。