2016年作品
監督 バリー・ジェンキンズ 出演 トレヴァンテ・ローズ、マハーシャラ・アリ
（あらすじ）
シャロンは売春婦の母と二人で暮らす内気な黒人少年。いじめっ子たちから逃れて廃屋に隠れていたところをフアン（マハーシャラ・アリ）という麻薬の売人に助けられ、それをきっかけに二人の間に父子に似た不思議な交流が始まる。そんなある日、シャロンから、いじめっ子から言われたという「オカマ」の意味を尋ねられたフアンは、真剣な表情で“仮にそうだとしても、決して他人にそう呼ばせるな”と答える…
昨年のアカデミー作品賞受賞作をまだ見ていなかったことに気付き、さっそく鑑賞。
本作は、ゲイである黒人男性の成長過程を幼少期、青少年期、成人期の３つのパートに分けて描いており、それぞれに“リトル”、“シャロン”、“ブラック”というその当時の彼に相応しい呼び名にちなんだタイトルが付けられている。
主人公もそれぞれのパートごとに別の俳優が演じており、（あらすじ）に書いたリトル期を担当しているのはとてもひ弱な印象を受ける男の子。性的にはまだまだ未熟であり、おそらく本人は自分がゲイなのかストレートなのかといった疑問さえ抱いたことは無いと思うのだが、いじめっ子たちの“嗅覚”は恐ろしいものであり、純粋無垢な彼に対して差別的な言葉を投げつける。
続くシャロン期を担当したのは、高校生くらいの華奢な体つきをした少年であり、長いまつげがとても印象的。いじめは続いているものの、頼りのフアンは既に亡く、唯一人の友人で“初体験”の相手でもあるケヴィンにまで裏切られたと思った彼は、いじめっ子のリーダーを椅子で殴り倒してしまい、そのまま少年院送りになってしまう。
そして、（ボヴァリー夫人とは対照的に）辛い人生を生き抜くために体を鍛え直し、タフな麻薬の売人に生まれ変わったのがブラック期。外見上はとても男っぽくなったものの、久しぶりに再会したケヴィンに自分の素直な気持ちを告白し、再び彼の腕の中へ。おそらく、我が国でもこんなロマンチックな作品が作られることを待ち望む人は大勢いるのだろうが、まあ、Me Too運動に対する反応なんかを見ていると、当分無理だろうなあ。
ということで、おそらくこれまでのアカデミー作品賞受賞作の中で最も低予算な作品の一つであり、風格みたいなものはほとんど感じられないのだが、111分という上映時間があっと言う間に感じられたのは、それだけ脚本や演出が素晴らしかったからなのだろう。フアン役で助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリの存在感も忘れられません。
