この自由な世界で

2007年作品
監督 ケン・ローチ 出演 カーストン・ウェアリング、ジュリエット・エリス
(あらすじ)
移民相手の職業紹介所で働いていたシングルマザーのアンジーカーストン・ウェアリング)は、ある日突然会社をクビになってしまい、困った彼女は友人のローズ(ジュリエット・エリス)を誘ってこれまでの経験を活かしたモグリの職業紹介業を始めることにする。幸い(?)職を求める移民とそれを安い労働力として歓迎する事業主はあとを絶たず、彼女らの仕事も何とか軌道に乗るかと思われたが…


ケン・ローチが「麦の穂をゆらす風(2006年)」の翌年に発表した社会派ドラマ。

アイルランド独立運動を描いた「麦の穂をゆらす風」が割とカチッとした感じの歴史ドラマだったのに対し、移民問題に揺れる英国の“現在”を取り上げた本作はかなり自由な雰囲気で撮影されており、ほとんどBGMも使われていないこともあって、冒頭のシーンなんかはまるでドキュメンタリー映画を見ているみたい。

内容は、これといったコネも才能もない主人公のアンジーが、一人息子のジェイミーとの安定した暮らしを手に入れるために次第に悪の道にハマっていくというものであり、本作で彼女が目を付けたのは今流行の(?)移民ビジネス。

“職業紹介”といえば聞こえは良いが、要は一昔前のドヤ街で行われていた“口入れ屋”であり、職を求める移民たちを町工場などに斡旋してその上前をはねるというもの。当然、移民たちの労働環境は劣悪な訳であるが、特にどんなに酷い状況下でも不満を言わない(=言えない)不法移民に対する需要は根強く、違法であるとは知りつつも、いつしかアンジーも不法移民の斡旋に手を染めるようになってしまう。

まあ、アンジーも好きでこんなことをしている訳ではなく、ジェイミーを預かってもらっている父親からも手厳しく批判されてしまうのだが、彼女が暮らしている“自由な世界”はもはや父親世代が過してきた“真面目に働いていれば何とかなる世界”ではなくなってしまっているのだから仕方がない(?)。先日拝見した「モンスター(2003年)」同様、凡人に対するネオリベラリズムの過酷さを改めて教えてくれる作品だった。

ということで、本作に描かれたような“自由”が庶民の幸福に役立っているとはとても考えられず、すぐにでも実効性のある規制措置を導入すべきであろう。残念ながら我が国では規制緩和が大流行のようであるが、加計問題でも明らかなとおりそれによって直接利益を受けているのは既に複数の学校を経営している“既得権者”であり、望ましい形での自由競争に繋がっているとはとても考えられません。