わたしは、ダニエル・ブレイク

2016年
監督 ケン・ローチ 出演 デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ
(あらすじ)
イギリス北東部に位置するニュー・キャッスル。長年大工として真面目に働いてきたダニエル(デイヴ・ジョーンズ)も心臓疾患という病魔には勝てず、今では国から支給される雇用支援手当が唯一の収入源。しかし、継続審査の結果は何故か“支給停止”であり、困った彼は求職者手当の申請のために職業安定所に出向くが、そこで係員から邪険に扱われていたケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)に出会う…


第69回カンヌ国際映画祭で2度目のパルム・ドールに輝いたケン・ローチ監督作品。

雇用支援手当の支給が停止されたのは電話による継続審査の点数が基準を下回っていた(=就労可能と判断された)からなのだが、紋切り型の質問に業を煮やしたダニエルの反抗的な態度が“医療専門家”を名乗る女性の心象を悪くした影響もあるのかもしれない。まあ、いずれにしろ医師から就労を禁じられている彼にとっては理不尽極まりない判定なのだが、不服申立ての手続きは煩雑すぎてとても彼の手に負えそうもない。

仕方がないので、求職者手当の申請をすることになるのだが、手続きはオンラインでしなければならず、パソコンを使えないダニエルにとっては大きな負担。さらに実際に求職活動をすることが求められるものの、ドクターストップを受けている身としては形だけの、すなわち虚偽の求職活動にならざるを得ず、それはダニエルの人間としての尊厳を大きく傷つけることになってしまう。

結局、ようやく不服申立ての手続きが開始されようとする寸前、彼は心臓発作であっけなく他界してしまう。その葬儀の場でケイティによって代読される“私は、ダニエル・ブレイク。人間だ。犬ではない”という彼の言葉はとても感動的なのだが、本作の最大の悲劇はそんな彼の悲痛な叫びを耳にしているのが彼と同じ弱者ばかりだということ。

実をいうと本作には富裕層の人間はほとんど姿を見せず、おそらくダニエルの雇用支援手当の支給を打ち切った医療専門家の女性も、ケイティに売春の仕事を斡旋したスーパーの警備員の男性も現状に不満を抱えた貧困層に属する人々。そして、そういった人間同士が角を付き合わせてお互いに不幸になっていくというのが現代の地獄絵図なのだろう。

ということで、遠い異国のお話ではあるが、我が国の生活保護や失業手当の窓口に行けば似たような話がゴロゴロころがっているに違いない。“俺はパソコンが使えるから大丈夫”と安心していても、いつかは最新のテクノロジーに付いていけなくなる可能性大であり、まあ、一日も早く新自由主義の悪夢から覚めるのが最善の策なんだろうと思います。