歴史は夜作られる

1937年作品
監督 フランク・ボーゼージ 出演 シャルル・ボワイエジーン・アーサー
(あらすじ)
アメリカの海運王ブルースの妻アイリーン(ジーン・アーサー)は、嫉妬深い夫との暮らしに耐えきれず、離婚を決意して一人パリへ渡る。しかし、妻に未練たっぷりのブルースは、離婚手続きを無効にするために彼女の不貞をでっち上げることを画策。運転手の男をホテルのアイリーンの部屋に忍び込ませるが、たまたま近くにいたポール(シャルル・ボワイエ)によって殴り倒されてしまう…


シャルル・ボワイエジーン・アーサーの共演によるメロドラマの古典。

ジーン・アーサー扮するアイリーンがハイヒールを脱ぎ捨てて踊るダンスシーンが有名な作品であり、どちらかというと健康的でサバサバした役柄の多い彼女がどんな濃厚なお色気シーンを見せてくれるのか見る前から興味津々。しかし、いざフタを開けてみればハスキー・ヴォイスの可愛らしいいつもどおりのジーン・アーサーであり、まあ、彼女のファンとしてはこれはこれで全く問題は無い。

さて、ストーリーは意外に複雑であり、(あらすじ)の直後、彼女の不貞の現場を取り押さえるためにホテルにやってきたブルースの目の前でポールはとっさに宝石強盗を装い、アイリーンを人質にして夜のパリの街へと逃亡。まあ、そうしないとポールが浮気相手にされてしまうからなのだろうが、このへんの不自然さを補うためにややラブコメ調に仕上げたことが功を奏しており、その後の二人の初デートの様子からもメロドラマっぽい雰囲気はまったくと言って良いほど伝わってこない。

一方、そんな中でただ一人シリアスを貫いているのが夫のブルースであり、持ち前の嫉妬深さからポールをアイリーンの浮気相手に違いないと邪推し、気を失って倒れていた運転手の男を撲殺してそれをポールの仕業だと警察に通報。翌朝、一人で帰宅したアイリーンもポールの一撃が命取りになってしまったと思い込んでしまうのだが、これだけの複雑なストーリーを限られたシーンとセリフだけで観客に理解させてしまうフランク・ボーゼージの手際の良さは驚異的としか言いようがない。

ということで、終盤、ポールとアイリーンを乗せた豪華客船が大西洋上で氷山に衝突してしまうところからようやくメロドラマっぽくなってくるのだが、どうも俺が期待していた“死を覚悟した二人の燃えるような恋”的な方向には話が進まず、ラストはまさかまさかのハッピーエンド。う〜ん、決して悪い作品ではないが、本作をメロドラマだと思っていたのは俺の完全な勘違いだったようです。