鉄格子の彼方

1949年作品
監督 ルネ・クレマン 出演 ジャン・ギャバンイザ・ミランダ
(あらすじ)
母国フランスで重大な犯罪に関わったらしいピエール(ジャン・ギャバン)は、貨物船の船底に隠れてイタリアのジェノバ港に密入国する。生きる希望を失ってしまった彼は、死刑になるのを覚悟の上で地元の警察に自首しようとするが、その前の腹ごしらえのために入ったレストランで親切なウエイトレスのマルタ(イザ・ミランダ)と出会い、ひょんなことから彼女を自宅まで送り届けることに….


ルネ・クレマンジャン・ギャバンを主役に起用して撮ったメロドラマ。

マルタは、ヤクザ者の夫ジュセッペの元を逃げ出し、一人娘のチェキーナと二人で住んでいる。当然、生活は貧しく、戦災により廃墟化した修道院の一室でひっそりと暮らしているのだが、そんな彼女の目の前に現れたピエールは、まあ、少々草臥れてはいるものの、白馬に乗った王子様のように見えたのかもしれない。

一方、マルタの優しさに触れたピエールも生きていく意欲を取り戻し、二人でおめかしをして束の間のデートを楽しむのだが、ちょうどその頃、フランスで殺人の罪を犯していたピエールの手配書が地元の警察に届けられ、あえなく逮捕。ピエールの名を呼び続けるマルタの悲痛な叫び声で幕を閉じるラストは、「禁じられた遊び(1952年)」に似てなくも無い。

まあ、ストーリーだけを紹介するとベタベタのメロドラマのように思えてしまうのだが、ルネ・クレマンの作品としては「海の牙(1946年)」に次いで発表されたものであり、甘ったるい雰囲気はかなり限定的。舞台がイタリアだということもあってか、むしろネオレアリズモ系列の作品のような硬質なイメージが印象的である。

また、マルタの一人娘チェキーナの存在が作品の良い“箸休め”になっており、ピエールと知り合ったのは彼女の方が先なのだが、あっさり母親に取られてしまってちょっとだけ焼き餅。警察が待ち伏せしていることを知らせるため、ろう石を使って“ピエール、気を付けて”というメッセージを街中に書いて回る姿がとても健気でいじらしかった。

ということで、初期のルネ・クレマンがメロドラマを撮ったらこんな感じになるんだろうなあ、という期待に十分応えてくれる作品であり、ジャン・ギャバンイザ・ミランダの名演も見応え十分。終戦直後のイタリアの風景も、本作のドラマチックなストーリーにピッタリでした。