アメリカの影

1959年作品
監督 ジョン・カサヴェテス 出演 レリア・ゴルドーニ、ヒュー・ハード
(あらすじ)
歌手のヒュー(ヒュー・ハード)、トランペット奏者のベン、それに文学少女のレリア(レリア・ゴルドーニ)は、マンハッタンのアパートで暮らす三兄妹。兄とは異なり、外見上は黒人の血を引いているように見えないレリアは、作家たちのパーティーでトニーという白人の青年と出会い、一夜を共にするが、翌日、彼女のアパートを訪ねてきたトニーはヒューと出会って衝撃を受ける….


長年、見てみたいと思っていたジョン・カサヴェテスの初監督作品。

“この映画はImprovisationで作られた”という説明文がエンドクレジットに表示されるとおり、本作にはいろんな意味で当時最盛期を迎えつつあったモダンジャズの影響が色濃く表れている。音楽を担当しているのはチャールズ・ミンガスであり、彼自身のベースソロと彼のバンドの一員であったシャフィハディによるテナーサックスソロが効果的に使われている。

脚本家のクレジットも無いので、シナリオなしで撮影されたらしいのだが、時期的にいっても、まだ完全なフリー・ジャズに移行してしまった訳ではなく、起承転結がそれほど明確ではないにしろ、三兄妹のそれぞれを主人公にした一応のストーリーは存在する。

その中で最もドラマチックなのが、(あらすじ)で紹介したレリアに関するものであるが、まあ、あらかじめ何も知らされていなかったトニーが、真実に気付いて瞬間的に戸惑ってしまうのは仕方のないところであり、人種差別を声高に批判するというよりも、肌の色だけで人間を区別してしまう白人社会の愚かしさを嘲笑しているだけのような気がした。

残りのヒューとベンに関するエピソードも、前者が陽気で前向きなのに対し、後者では暗く鬱積した若者の怒りのようなものを描いており、全体として見ればきちんとバランスが取れている。おそらく、ジョン・カサヴェテスは、同じモダンジャズの中でも理知的で抑制の効いたクール・ジャズのファンだったのではないだろうか。

ということで、ストーリー的には少々面白味に欠けるものの、スタイリッシュな感覚に溢れたモノクロの映像からは、本作がこれまで高い評価を受けてきた理由がよく伝わってくる。とりあえず、もう2、3本、カサヴェテスの監督作品を見てみようと思います。