月はどっちに出ている

1993年作品
監督 崔洋一 出演 岸谷五朗ルビー・モレノ
(あらすじ)
在日朝鮮人の姜忠男(岸谷五朗)は、朝鮮学校の同級生だった金世一が経営する金田タクシーで働くタクシー運転手。ユニークな同僚たちと一緒に黙々と日々の業務に励んでいた彼は、ある日、母親の経営するフィリピン・パブのチーママとして雇われることになったコニー(ルビー・モレノ)に出会い、積極的なアタックを繰り返した結果、彼女のアパートに転がり込むことに成功する….


第67回 キネマ旬報ベストテンで日本映画の第1位に輝いた作品。

冒頭、忠男の友人のものと思われる結婚披露宴の様子が描かれるのだが、新郎新婦が民族衣装で登場するだけでなく、余興の歌を誰が歌うかで総連と民団の間でマイクの取り合いになったり、そうかと思えば、歌が始まるなり皆が一緒になって踊り出したりといった具合に、日本の一般的な披露宴に比べて随分と異様な雰囲気が漂っている。

まあ、こういった光景が多数派である我々の目に異様と映るのは、マスコミ等が、少数派である在日朝鮮人の皆さんの日々の暮らしぶりに関する情報をこれまでほとんど伝えてこなかったからであり、その片鱗を窺い知ることの出来る本作は、もう、それだけでなかなか貴重な作品と言わざるを得ない。

さらに、本作では在日朝鮮人よりもさらにマイナーな存在であるフィリピンからの出稼ぎ労働者を登場させることにより、日本における在日朝鮮人の立場を相対化することに成功しており、“被害者”一辺倒ではない在日の皆さんのバイタリティに溢れたお姿からは、とても新鮮な印象を受けた。

主役を務めた岸谷五朗は、その表情の乏しさが忠男の内に潜む虚無感を表現するのにピッタリであり、正に適役。コニーに扮したルビー・モレノの可愛らしさは本作の大きな魅力になっていた。また、ビッグネームになる前の遠藤憲一國村隼萩原聖人等が出演しており、今見るとなかなか豪華な顔ぶれになっているのが面白い。

ということで、崔洋一の監督作品を見るのは「カムイ外伝(2009年)」に引き続き、これが二作目になるのだが、悲惨としか言いようがなかった「カムイ外伝」とは比較にならないくらいの面白さであり、この監督のことをちょっぴり見直してしまいました。