世界を彼の腕に

1952年作品
監督 ラオール・ウォルシュ 出演 グレゴリー・ペック、アン・ブライス
(あらすじ)
アメリカ人船長のジョナサン・クラーク(グレゴリー・ペック)は、アラスカをロシアから買収する資金を作るため、サンフランシスコのホテルで銀行家等のスポンサーを集めた大舞踏会を開催する。そのホテルに宿泊していたロシアの伯爵令嬢マリーナ(アン・ブライス)は、皇帝が決めた婚約者から逃げるため、アラスカまで彼女を乗せて行ってくれる船を探しており、身分を隠してクラーク船長に接近する….


「艦長ホレーショ(1951年)」に続く、ラオール・ウォルシュグレゴリー・ペックによる海洋アクション映画第二弾。

クラーク船長のしていることは、要するにオットセイの密猟な訳であるが、ロシア側にもオットセイを捕獲するために原住民を奴隷のように酷使していることや、彼等の乱獲のせいでオットセイが絶滅の危機に瀕していること等の非があるというのが彼の言い分。まあ、とてもこれが密漁の言い訳になるとは思えないが、本作が公開されたのは朝鮮戦争の真っ最中ということで、当時としてはたいした問題にはならなかったんだろう。

また、ロシアの伯爵令嬢がアメリカ人の密漁者に一目惚れするという設定には相当の無理があるような気がするし、一方、クラーク船長の方も、最初は貴族嫌いという設定だったにもかかわらず、マリーナの正体を知ってからもそのことを全然問題にしていない様子。

まあ、そんな無理な設定を反映して、グレゴリー・ペック演じるクラーク船長はとても密漁者には見えないくらいに爽やかであり、アン・ブライス扮するマリーナも伯爵令嬢にしては随分庶民的で色っぽい。しかし、このへんに目をつぶってしまえば、単純明快で(ロシア関係者を除く)万人が楽しめる海洋アクション映画に仕上げられていると言えるだろう。

なかでもクラーク船長のライバル(?)に扮するアンソニー・クインの豪快なやられっぷりは、類型的ではあるもののなかなか見事であり、原住民の一等航海士による怪演とともに本作の雰囲気を大いに盛り上げてくれている。

ということで、ハリウッド映画において“主役のアメリカ人男性は世界中の美女からモテモテ”という設定はどうしても譲れないところであり、相手がヨーロッパの王女や伯爵令嬢の場合には知的で上品なグレゴリー・ペックが正にうってつけだったんだろうね。本作でもなかなか良く健闘していたと思います。