竹内好 ある方法の伝記

鶴見俊輔が書いた竹内好の伝記。

以前読んだ「日本とアジア」が大変面白かったので、竹内好の別の著作を読んでみようと思っていたのだが、適当なものがなかなか見つからない。そんなとき目にとまったのが本書であり、普段は評伝の類はあまり読まないようにしているものの、鶴見俊輔の竹内評もちょっと気になったので、やむをえず(?)読んでみることにした次第。

結果的に、本書で描かれている竹内像と、俺が「日本とアジア」を読んでイメージしたそれとの間に大きな差異は無かったのだが、今回、特に印象深かったのは、竹内が魯迅の著作の中から抽出したという“掙扎(そうさつ)”なるキーワード。

直接的には「がまんする、堪える、もがく」といった意味の言葉らしく、実践するにはそれなりの知的な余力みたいなものが必要になりそうだが、単純で画一的な“真理”に飛びつきやすくなっている今の日本にとっても、とても重要な意味を持っているような気がした。(また、竹内の思想に少々誤解を受けやすい面があるのは、この掙扎のせいなのかもしれない。)

この他にも、太宰治の「惜別」(=未読)を巡る竹内と荒井健の評価の違いや、竹内の加藤周一評といった、個人的にも興味深い話題が沢山取り上げられており、鶴見の簡潔な文章表現のお陰もあって、とても楽しく読み終えることが出来た。

ということで、本書を読んで唯一残念だったのは、この後、竹内のどの著作を読めば良いのかという点に関し、依然として十分なヒントが得られなかったこと。結局、引き続き同じ問題に悩まされることになりそうです。