ヴィーナス

2006年作品
監督 ロジャー・ミッシェル 出演 ピーター・オトゥール、ジョディ・ウィッテカー
(あらすじ)
かつての人気スターであった俳優のモーリス(ピーター・オトゥール)も今や70歳を超え、出演のオファーがかかるのは端役ばかり。そんなある日、俳優仲間でもある親友イアンの家に、田舎から出てきた遠縁の娘ジェシー(ジョディ・ウィッテカー)が同居し、彼の身の回りの世話をすることになるが、料理や掃除がまったく駄目というこの不良娘に、モーリスは年甲斐もなく心をときめかせてしまう….


ピーター・オトゥールの8度目のアカデミー主演男優賞落選作品。

老人と若い娘の“恋愛”をテーマにしたコメディ作品であるが、厳しい現実を和らげるためのファンタジー的な要素は皆無であり、モーリスの“老い”の醜悪さがかなり直截的に描かれている。若者同士であれば許されるであろう自然な肌の触合いも、彼が行うと何故かかえって生々しくなってしまう。

一方のジェシーも、まあ、若いだけが取柄のような田舎娘であり、モーリスに優しくしてあげるのは彼に何か買って貰ったときだけ。彼の洗練された会話の魅力を理解することも出来ずに、(俺のような年寄りからは)ほとんど間抜けのように見える趣味の悪い若い男と付き合うようになる。

ラスト近くなって、ようやく“救い”のようなシーンは登場するものの、そこに至るまではほとんどがモーリスの自虐ネタによって占められており、これを普通の年寄りが演じていたらキツイ映像満載の作品になっていたと思うのだが、そこは流石のピーター・オトゥールということで、最後まで上品な雰囲気を失うことはない。

まあ、老人の性という問題は社会的にも理解されにくいテーマであり、俺も若い頃なら目を背けたくなるようなシーンが何度か出てくるのだが、ジェシーよりもモーリスに近い年齢となった今は、(俺自身が理想と考えている老後の生活とはかなり差があるものの)割と暖かい気持ちで最後まで見守ることができた。

ということで、題名の“ヴィーナス”というのはモーリスが付けたジェシーのニックネームであり、ロンドンのナショナル・ギャラリーに展示されているベラスケスの「鏡のヴィーナス」が元ネタになっている。いよいよ来週に迫った我が家の英国旅行でも訪れる予定であり、しっかりと本物を鑑賞してきたいと思います。