幻の女

1944年作品
監督 ロバート・シオドマク 出演 フランチョット・トーン、エラ・レインズ
(あらすじ)
設計事務所を経営するスコットは、ある晩、妻の殺人容疑で警察に逮捕されてしまう。彼は自分のアリバイを主張するが、それを証明してくれるはずの目撃者たちは誰も彼の主張を認めようとせず、結局、裁判でも有罪。上司の無実を信じる秘書のキャロル(エラ・レインズ)は、スコットの親友であるマーロウ(フランチョット・トーン)の助けを得て、目撃者から真実を聞き出そうとするが….


ウィリアム・アイリッシュ原作のサスペンス映画。

スコットのアリバイというのは、事件当夜、バーで出会った見知らぬ女性と一緒に劇場に行っていたという内容なのだが、その女性が何処の誰なのか見当もつかず、また、バーのバーテン、劇場まで利用したタクシーの運転手、そして劇場の出演者たちは、全員口を揃えて彼は一人だったと証言する。

その女性の存在を知っている我々観客は、ここでスコットを落とし入れようとする巨大な陰謀の存在を察知する訳であり、このあたりのスピーディーな演出はなかなかのもの。途中でストーリーの中心人物をスコットからキャロルに変更したり、何の予告もなしに観客に真犯人の正体を明かしてくれるといった大胆な演出も、決して悪くない。

残念なのは、結末がちょっと強引過ぎるところであり、“真犯人はどうやって事件当夜におけるスコットの行動を把握することが出来たのか”とか、“殺人事件に関与していることを知った後も目撃者たちが証言を翻さなかったのは何故か”といった疑問が次から次へと頭に浮かんできてしまう。

まあ、所詮娯楽映画なんだから、キャロルが我が身の危険を顧みずにバーテンの男を尾行するところや、アパートの一室で繰り広げられる熱いジャムセッション等、夜のニューヨークの雰囲気が上手く出ている魅力的な映像等を楽しんでいれば良いのだろうが、もう少し時間をかけてこのへんの疑問をきちんと解消してくれていれば、なおのこと有り難かった。

ということで、ヒロインに扮したエラ・レインズという女優さんは、おそらくこれが初見だと思うが、アメリカ女性らしい親しみやすい雰囲気を持った美貌の持ち主。プロフィールを調べてみたところ、あまりパッとした作品に出演していないようなのが残念で、うーん、ちょっと個性が弱かったのかもしれません。