忘れじの面影

1948年作品
監督 マックス・オフュルス 出演 ジョーン・フォンテイン、ルイ・ジュールダン
(あらすじ)
20世紀初頭のウィーン。リーザ(ジョーン・フォンテイン)は、母親と二人で住んでいたアパートの一室に引っ越してきた新進ピアニストのステファン(ルイ・ジュールダン)に秘かな思いを寄せていた。母親の再婚によって一度は離ればなれになってしまうが、18歳になって一人でウィーンに戻ってきた彼女は、ある夜、思い出のアパートの前でステファンと再会する….


ジョーン・フォンテイン主演の古典的メロドラマ。

決闘を明朝に控えた遊び人のステファンの元へ、名も知らぬ女性から一通の手紙が届くところから話しは始まるのだが、その手紙の差出人が本作のヒロインであるリーザということで、彼女の方では少女の頃に出会ったときからずっとステファンのことを思い続けていた訳であるが、彼の方は彼女の名前さえロクに覚えていないという有様。

まあ、恋愛の対象にすらならなかったであろうリーザの少女期を除けば、その後の数年間の内にこのお二人がお会いした日数はほんの3、4日程度であり、それからすれば女性にモテモテだったステファンが彼女の名前を覚えていないのも仕方のないところ。

見終わって冷静に考えてみれば、むしろリーザの“執着”の方にこそ少々の薄気味悪さを覚える訳であるが、本作はもっぱら彼女の“主観的時間配分”を基本にして作られているので、少なくとも見ている間は、美女の一途な恋心を描いたメロドラマとして立派に成立している。

特に、18歳になったリーザが念願かなってステファンと一夜限りのデートを楽しむ場面は、本作の、そして彼女の人生における最高のクライマックス・シーンであり、その喜びが見ているこっちの方にまでしっかりと伝わってくる。まあ、結果的には彼女が真に幸福だったのはこの一日だけなんだけどねえ。

ということで、主演のジョーン・フォンテインは公開当時31歳。ステファン役のルイ・ジュールダンよりも年上ではあるが、そのスレンダーな容姿が幸いして、リーザの少女期を演じていてもさほどの違和感はなかった。監督のマックス・オフュルスについても、もっといろんな作品を見てみたいと思っているのだが、あまりDVD化されていないこともあって、なかなかその機会に恵まれないのが残念です。