模倣の人生

1934年作品
監督 ジョン・M.スタール 出演 クローデット・コルベール、ウォーレン・ウィリアム
(あらすじ)
夫に先立たれて幼い娘と二人きりになってしまったベアトリス(クローデット・コルベール)は、彼から引き継いだメイプルシロップの行商で細々と生計を立てていた。そんなある日、ひょんなことからやはり幼い娘を抱えた黒人家政婦のデライラを雇うことになったベアトリスは、デライラが作る秘伝のパンケーキの美味しさに着目し、街中の貸店舗を借りてパンケーキ屋を開くことを思い付く…


或る夜の出来事(1934年)」と同じ年に公開されたクローデット・コルベールの主演作。

大好きなコメディエンヌの作品なので、当然、喜劇映画なんだろうと思って軽い気持ちで見始めたのだが、実際はなかなか重いテーマを扱った辛口の人生ドラマであり、ベアトリスの始めたパンケーキ事業が順調に発展していくことを背景に、彼女とジェシー、そしてデライラとペオラという二組の母娘を巡ってストーリーが展開していく。

ベアトリスとジェシーの問題は、母親の恋人ステファン・アーチャー(ウォーレン・ウィリアム)をそうとは知らずに娘も愛してしまうという内容であり、作品としてはメロドラマ風にこちらの方にウエイトを置いて描いているのだが、正直、底が浅くてあまり感心はしない。

一方、デライラとペオラの問題はより深刻であり、悲劇の直截の原因はペオラの肌が(混血だった父親の遺伝的影響により)白人同様に白いこと。デライラは何度も“社会的には黒人である”という現実を受け入れるようにペオラを優しく諭すのだが、デライラ自身、黒人は白人に従属しているのが当然という“迷信”に凝り固まっており、そんな母親の言葉を人一倍賢いペオラが納得するはずはない。

結局、黒人系の大学を勝手に中退し、白人として生きる道を選んだペオラは母親を捨てて家を出て行ってしまい、デライラは失意の余り死んでしまうのだが、それを知ったペオラが(おそらく“反省”して)大学に復学するというところでジ・エンド。正直、何とも中途半端で物足りない幕切れではあるが、まあ、これが当時の限界だったんだろうなあ。

ということで、どう考えても印象的なのはデライラとペオラの物語の方であり、おそらくベアトリスとジェシーの物語はその(当時としては)過激すぎる問題提起を柔らげるための“煙幕”として使われたのだろう。本作はダグラス・サークによって「悲しみは空の彼方に(1959年)」として再映画化されているそうであり、機会があればそちらの作品も見てみたいと思います。