冷血

トルーマン・カポーティが1965年に発表したノンフィクション・ノベル。

先日DVDで見た「カポーティ(2005年)」がなかなか面白かったので、早速、読んでみたのだが、内容はほぼ映画から予想されるとおり。映画の方でほとんど触れられていなかったクラッター一家殺害犯の“動機”については、本書でも幼少時代に深刻な愛情の欠乏を経験した人間の性向に関する学説を紹介している程度で、作者自身の考えは特に述べられていない。

映画「カポーティ」と一番違う点は、犯人のペリーが実際は身体障害者だったというところであり、本書中これに関する記述は沢山あるものの、殺人の“動機”との直接の関連性については特に述べられていないため、映像化に当たって変更されたものと思われる。まあ、この判断が正しかったのかどうかは誰にも解らないのであるが。

また、映画の方ではペリーとカポーティとの交流の様子が描かれていたが、本書には作者自身は登場していないのが少々意外。最後の方で「通信したり、定期的に面会するのを許されていたジャーナリスト」と記述されているのがカポーティ自身のことのような気もするが、映画に描かれていたように一審で死刑判決を受けた後の二人の“悪あがき”のきっかけがカポーティにあるのだとすれば、この省略は少々ズルイような気もする。

ということで、“動機なき殺人”というのはおそらくずーっと昔からあったのだろうが、それをそのまま描いた点が本書の傑作たる理由の一つなんだと思う。そして、そのことは誰でも殺人犯になり得るということにも通じる訳であり、そんな人々の不安を紛らわせるためにマスコミは理解しやすい犯人の“動機”を今でも血眼になって探し続けているのでしょう。