弁護側の証人

小泉喜美子という人が書いた叙述トリックの名作(らしい)。長らく入手困難な状況にあったらしいのだが、この度、文庫本で復刊されたということで一部で話題になっていた。

叙述トリックということで、ダマされないように最初から慎重に読み進めていったのだが、「太陽を曳く馬」を読んだ直後ということもあってか、正直、文章自体はそれ程上手いとは思えない。特に、ヒロインの一人称で書かれた部分は翻訳物を読んでいるかの如き印象を覚えるほどで、先々が少々不安になる。

純情な場末のストリッパーが大金持ちのドラ息子に惚れられ、嫁ぎ先の遺産争いに巻き込まれるというストーリーも通俗的であり、登場人物にもあまり魅力的なキャラクターは見当たらない。後は“名作(らしい)”という予備知識だけを頼りに何とか読み続け、遂に運命の第11章へ。

いや〜、本を読んでいてこれほどのパニック状態に陥ったのは、おそらく今回が初めての経験だったかもしれない。しかも、一度読み終えてから、冒頭部分を視点を変えて読み直してみたところ、全く不自然な点が無いことに再び驚かされ、正に脱帽状態。ちょっと口惜しいけれど叙述トリックの名作という評判は本当だった。

ということで、叙述トリックの口惜しいところは、ダマされるのが作品中の登場人物ではなく、読んでいる俺自身のみという点。何ともスッキリしないので、妻にも読ませて一緒に口惜しがってもらうことに致しましょう。