レ・ミゼラブル

家族揃って大好きなミュージカル作品の原作でもあるヴィクトル・ユーゴーの名作。

以前から一度読んでみようと思っていたのだが、分厚い文庫本4冊というボリュームに圧倒されてしまい、なかなか手を出せないでいた。しかし、たまたま本屋で最初の数ページを拾い読みしてみたところ、豊島与志雄氏による名訳はリズム感があってとても読みやすそうであり、これなら何とかなりそうということで挑戦を決意。

そんな訳で滑り出しは極めて順調だったのだが、第二部に入るといきなりワーテルローの戦いに関する詳しすぎる解説が延々と続き、思わず絶句。その後も、修道院や隠語等、小説の本筋とは直接関係の無い事柄に関する蘊蓄がたびたび登場し、読み進めるスピードを次第に減退させていく。

そんな箇所は読み飛ばしてしまえば良いのだろうが、執筆当時、母国フランスを追われて亡命生活を強いられていたユーゴーの寂しさを紛らわすための長広舌かと思えば、まあ、あまり邪険にするのも気の毒であり、しっかりお付き合いさせて頂く。しかし、こういった部分を取り除いていけば、文庫本1冊分くらいは短くなったかもしれないなあ。

さて、ミュージカル版との一番大きな違いは主人公ジャン・ヴァルジャンのキャラクター設定であり、小説版の彼は最初からかなりの老人として登場する。また、人間的な弱さを最期まで持ち続けた人物でもあり、ミュージカルでは“Who am I?”1曲だけで片づけてしまった“自首するか否か”の問題に関しても、小説の方では笑っちゃうくらいに最後の最後まで延々と悩み続けるんだよね。

また、ミュージカル版では少々頼りなかったマリウスが二人目の主人公として存在感を示しているのも重要なポイントであり、後半部分は、王党派の環境の中で育った青年がボナパルティスト〜共和派を経て人道主義に目覚めていくという彼の成長譚にもなっている。一方のコゼットは最後まで未熟なまんまなのだが、まあ、そのへんが19世紀文学の限界なんだろう。

ということで、これだけの大作を2時間余に圧縮してしまったミュージカル版は、やはり所々無理が生じてはいるものの、原作のエッセンスをきちんと受け継いでいることを確認出来たのが一番の収穫。後日、映画や舞台のDVDを見直したとき、今まで以上に楽しく拝見できそうな気がします。