イル・ポスティーノ

1994年作品
監督 マイケル・ラドフォード 出演 マッシモ・トロイージ、フィリップ・ノワレ
(あらすじ)
1950年代のイタリア。マリオ(マッシモ・トロイージ)は、ナポリ沖に浮かぶ小さな島で漁師である老父の手伝いをしながら暮らしていたが、彼は漁師という仕事を継ぐことに希望を見出せないでいた。その頃、世界的に有名な詩人のパブロ・ネルーダフィリップ・ノワレ)がチリから島に亡命してくることになり、マリオは世界中から彼の元へ送られてくる郵便物を届けるための配達人の職につくことになった….


イタリア製のヒューマンドラマ。

“イル・ポスティーノ”というのはすなわち“配達人”のことであり、マリオの住む村には他に手紙を受け取るような人間がいない(∵そもそも字が読めない。)ことから、彼はネルーダ家専用の配達人になる。最初は、女性にモテるために有名人であるネルーダの名前を利用しようと考えたマリオであったが、ネルーダとの交流を通して次第に詩の素晴らしさに気付き始める。

まあ、結果的にマリオがその短い生涯で作った詩はたったの一遍だけであり、それさえも一度も発表されることなく失われてしまう訳であるが、彼は驚くほどに純粋な心の持ち主であり、詩人というより、(素晴らしい島の風景なんかと同様)その生き方そのものが美しい“詩”だったということなんだろう。

最後の最後まで大した事件が起きる訳でもなく、島一番の美女であるベアトリーチェに対するマリオの恋も意外なほどスムーズに成就してしまう等、正直、少々物足りなさを感じないでもないのだが、そこはむしろ安易なエピソードを挿入することなしにマリオという平凡な男の生き方を最後まで淡々と描ききった“誠実さ”みたいなものの方を評価すべきだと思う。

残念なのは、公開当時41歳という主演のマッシモ・トロイージがマリオの役柄からするとちょっとフケすぎな点であり、彼の容貌や演技の端々からほとんど若々しさが感じられず、ベアトリーチェがいったい彼のどんなところに魅かれたのか理解に苦しむ。

ということで、見終わってから知ったのであるが、主演のマッシモ・トロイージはこのとき既に重い病魔に侵されており、何と撮影終了後12時間で死亡してしまったらしい。まあ、そのことを知った上で本作における彼の演技を思い返すとまた違った印象が見えてくるのだが、うーん、それって正しい映画の鑑賞法と言えるのでしょうか。