スローターハウス5

1972年作品
監督 ジョージ・ロイ・ヒル 出演 マイケル・サックス、ロン・リーブマン
(あらすじ)
検眼士のビリー・ビルグリム(マイケル・サックス)は、自分の人生のあらゆる場面を自由に行き来できるという不思議な能力の持ち主。しかし、場面の選択は彼の意志とは無関係に行われるため、あるときは第二次世界大戦時のドイツでちょっとイカレた戦友のラザロ(ロン・リーブマン)等と一緒に捕虜として強制労働に従事していたかと思うと、次の瞬間にはトラルファマドール星でセクシー女優と寄り添っていたり….


言わずと知れたカート・ヴォネガットの代表作の映画化。

俺が「スローターハウス5」という作品に関わったのは、たぶん高校生の頃に小説で読んだのが最初の出会いであり、その後、本作を一度だけTVの深夜放送(?)で見たという記憶がある。そのときは、TV放映という悪条件に加え、おそらく原作を読んだときの印象がまだ色濃く残っていたせいもあって、“まあまあ”という程度の満足度だったと記憶している。

今回、それから数十年ぶりに本作を見直した訳であるが、これがなかなか素晴らしい作品であった。ヴォネガット自身の体験でもあるドレスデン大空襲前後の出来事が中心になって描かれているのだが、ジョージ・ロイ・ヒルらしい明るめの映像のおかげで、(数々の悲惨なエピソードにもかかわらず)全体的な雰囲気としてはむしろ“楽しい”と言っても許されるような作品になっている。

そして、その明るい雰囲気を背後で心理的に支えているのが、作中で紹介される4次元生物トラルファマドール星人によるユニークな人生観なんだろう。すなわち、人間の一生を俯瞰することができる彼等にとってみれば、死というのはその人の人生の断片の一つに過ぎず、死んだからといって人生そのものが失われる訳ではない。まあ、時間に縛られた我々にはそれを実感することは出来ないのだが、死を考えた場合の“気休め”くらいには十分なると思う。

また、ちょっと地味目ではあるが出演者も全員良い味を出しており、そんな中でデビュー間もない頃のヴァレリー・ペリンの初々しいお姿が見られるのもとても喜ばしい。さらに、これは最初見たときにはあまり気付かなかったのだが、グレン・グールドが参加しているという映画音楽も美しい映像に負けないくらい素晴らしかった。

ということで、ビリーの人生にとって最良のひとときがトラルファマドール星でのモンタナとの生活というのもなかなか皮肉なオチではあるが、これって彼の人生において実際に起きた出来事なんだろうか? ひょっとするとビリーの妄想に過ぎない可能性も十分にある訳で、うーん、もう一度原作を読み直してみようかなあ。