仮面の米国

1932年作品
監督 マーヴィン・ルロイ 出演 ポール・ムニ、グレンダ・ファレル
(あらすじ)
戦争から帰還したジェームズ・アレン(ポール・ムニ)は、出征前に従事していた工場での単純作業を嫌い、戦時中に身につけた技術を生かせる土木関係の職を探そうと家を出る。しかし、希望する仕事が見つからないばかりか、ふとしたはずみで強盗の片棒を担がされることになり、あえなく警察に逮捕。10年間の懲役を言い渡された彼には、刑務所での地獄のような毎日が待っていた….


マーヴィン・ルロイが「犯罪王リコ(1930年)」の2年後に公開した社会派ドラマ。

主人公が刑務所に入れられて以降、彼を含む囚人達の悲惨な毎日がリアルに描かれる訳であるが、両足を鎖でつながれたままで屋外の過酷な重労働を強いられるという、まるで家畜並みの劣悪な生活環境からは、もう、“更生”なんていう甘っちょろい思想は微塵も感じる取ることは出来ない。

そんな生活に耐えきれなくなったジェームズはなんとか脱走に成功し、名前を変えて道路工夫の仕事に就くと、皮肉にも、彼の才能と努力が実を結び、トントン拍子に一流の建築技師として世間の尊敬を集めるまでに出世する。しかし、彼の正体を知っている妻マリー(グレンダ・ファレル)の嫉妬が原因で、再び、刑務所に入れられてしまう訳であるが、彼のような人物を再びあの刑務所内での重労働に従事させることに一体どんな意味があるのだろうか・・・

原題は「I Am a Fugitive from a Chain Gang」で、驚いたことに実話に基づいているのだそうだ。恥ずかしながら、俺はこの“Chain Gang”という言葉を“チェーンで武装したギャング”みたいな意味だと勝手に思い込んでいたが、実は“一本の鎖につながれた囚人たち”というのが正解とのこと。

実際、本作に登場する囚人達は、全員が鎖でつながれた鉄の輪を両足に嵌められているんだけれど、その鎖の真ん中あたりからは別の鎖がもう一本伸びていて、その端にやはり鉄の輪が付いている。そして、囚人たちがトラックの荷台に乗せられて作業現場に向かうような場合には、一人で逃亡できないよう、その全員の鉄の輪に一本の長〜い鎖が通されることになり、どうやらこれが“Chain Gang”の正しい姿らしい。

ということで、主演のポール・ムニは、同じ年に公開された「暗黒街の顔役(1932年)」に勝るとも劣らない熱演であり、本作自体もとても面白い作品になっている。この後、ジェームズは2度目の脱獄にも成功するんだけれど、そんな彼が、恋人の「どうやって暮すの?」という問いに対し、「I steal!」と叫んで闇に消えていくラストは、なかなかの名シーンだと思います。