以前読んだ「誰がイエスを殺したか」の著者であるジョン・ドミニク・クロッサンが、同書の前年(1994年)に発表した作品。
内容は、ズバリ“歴史のイエス”を再構築しようとするものであり、福音書に記された内容を他の文献や資料等を活用して合理的に解釈することにより、イエスの実像を明らかにしていく。
まあ、著者のスタンスは「誰がイエスを殺したか」と同様であり、特に本書の第6章以降、イエスの死や復活について述べている部分では同書と重複するような内容も多いのだが、彼の描き出す、“子沢山の貧農夫婦の、最低でも6人以上いる子供の2番目以降として生まれ、最期はありふれた一犯罪者として十字架にかけられ、その遺骸は野獣に食われるままに放置された”というイエス像にはなかなかのリアリティもある。
また、ヨハネのような黙示的預言者とは異なり、地縁や血縁までも否定したラディカルな平等主義者として描かれるイエスは、従来の静的で近寄りがたいキャラクターに比べればよっぽど魅力的であり、特に、その平等社会を“現世”において実現しようと努力したというあたりは、ちょっと泣けてくるくらいに感動的。思わず、Jimmy Cliffの名曲「Under the Sun, Moon and Stars」の歌詞を思い出してしまった。
ということで、まあ、クロッサンが本書で描いたイエス像が本当の“歴史のイエス”であるのか否か、という点は永遠の謎なんだろうけど、少なくとも処女懐胎とか死後三日目の復活とかいうエピソードを纏ったイエス像よりは、はるかにそれに近いことだけは間違いのないところであり、キリスト教(というか、宗教一般になるのかな?)にとってそのような過剰な脚色が必要だったのは何故なのか、引き続き興味は尽きそうにありません。