1941年作品
監督 ラオール・ウォルシュ 出演 アイダ・ルピノ、ハンフリー・ボガート
(あらすじ)
特赦により8年ぶりに刑務所を出られた銀行強盗犯のロイ・アール(ハンフリー・ボガート)は、かつての仲間から、高級ホテルの金庫に預けられた宝石類を強奪する計画を持ちかけられる。強盗仲間の待つキャンプ場に到着したロイは、そこで彼らが街から連れて来た元ダンサーのマリー・ガーソン(アイダ・ルピノ)と出会う….
先日見て面白かった、同じラオール・ウォルシュ監督による「死の谷(1949年)」のオリジナル。
主要な登場人物やストーリーの大筋は一緒であるが、あちらが西部劇仕立てなのに対し、こっちはギャング映画ということで、本作の方がより現実的に作られている。特に、作品の後半、主人公が官憲に追われる身となってからの展開が、「死の谷」の方ではやや過剰と思える程に感傷的だったのに対し、本作ではとてもクールにまとめられているのがとても印象的だった。
まあ、普通に考えて、この原作を映画化しようとした場合、本作のような作品になるのがむしろ当然のことであり、西部劇だからこそ許される「死の谷」のような感傷的な筋立てを本作で採用していたら、ハンフリー・ボガートのせっかくのパーソナリティが台無しになっていたに違いない。
その、本作が本格的な主演第一作目となるハンフリー・ボガートは、公開当時42歳。彼の演じるロイ・アールは、狂犬と呼ばれる凶悪な銀行強盗犯でありながら、足の悪い純情(そう)な少女に惚れてしまい、その挙句に失恋するというロマンチックな一面を併せ持ったキャラであり、このへんが「マルタの鷹(1941年)」や「カサブランカ(1942年)」に主演する契機になったのかなあ、なんて思いながら見ていた。
ということで、本作がなかなかの力作であることは否定しないが、「死の谷」と比べてどちらが面白かったかと言えば、うーん、やっぱり後者の方かなあ。いや、ジョエル・マクリーは完全なミスキャストなんだと思うけど、それを補うために採用した感傷的な脚色が奇跡的(?)に上手くハマってしまっているんだよねえ。まあ、いずれにしても、一つの原作からこのような二つの優れた作品を生み出したラオール・ウォルシュの手腕は、もう、流石としか言いようがありません。