「ユダ福音書」の謎を解く

1970年代にエジプトで発見された新約聖書外典の一つである「ユダ福音書」の解説書。

まだ正典の知識も不十分なので外典の勉強は当分先のことと考えていたのだが、その意外性タップリの書名の魅力には抗いきれず、とうとう購入。裏切り者のユダが記録したイエスの福音ということで、かなり危ない内容を期待(?)していたのだが、ある意味、正典よりもずっと“まとも”な内容だった。

内容は2部構成になっているのだが、ユダ福音書の本文とその注釈が掲載されているのは第2部の方であり、最初にエレーヌ・ペイゲルスとカレン・L・キングという二人の著者による解説の方から読むことになる。

そこで強調されているのは、殉教に代表されるキリスト教の“犠牲システム”に対する批判であり、そのシステムの思想的根拠になっているイエス磔刑に関する解釈のコペルニクス的転回。まあ、後者に関しては正典の間でもかなりのブレがあるのだが、ユダ福音書の内容はヨハネによる福音書の方向性をさらに過激に推し進めたものと考えて良いのだろう。

実は、第2部を読んでみると、ユダ福音書には犠牲システムを直接批判しているような箇所はほとんど見当たらず、解説とのギャップに少々当惑してしまうのだが、現在、世界各地で頻発している自爆テロやいまだに息の根を止めることが出来ないでいる我が国の靖国神話の現状を見れば、著者がユダ福音書の記述から犠牲システム批判を抽出したことは慧眼というべきなんだろう。

ということで、キリスト教に対するギリシャ哲学の影響といった面でも、なかなか興味深い示唆に富んだ内容であり、書名から期待した内容とはちょっと違ったものの、とても面白い本でした。