絹の靴下

1957年作品
監督 ルーベン・マムーリアン 出演 フレッド・アステアシド・チャリシー
(あらすじ)
アメリカ人の映画プロデューサーであるキャンフィールド(フレッド・アステア)は、パリを訪れていたソビエトの作曲家に映画音楽を依頼するため、彼を連れ戻しにやってきた3人組を酒と女とで籠絡。不審に思ったソビエト本国は、調査のために模範的な共産党員であるニノチカシド・チャリシー)をパリへ派遣することにした….


「バンド・ワゴン(1953年)」に引き続き、フレッド・アステアシド・チャリシーの作品を鑑賞。

ルビッチの名作「ニノチカ(1939年)」をコール・ポーターの作詩作曲によりミュージカル化した作品であり、見るのはこれで3、4回目くらいかなあ。設定はミュージカル向けに変更してあるものの、ストーリー自体はオリジナルと大きな違いはない。

アステアは、この2年後に出演した「渚にて(1959年)」では演技派俳優への転向を図っており、ダンサーとして本格的なミュージカル映画に主演するのは本作が実質上、最後の作品といって良いだろう。そんな目で本作における彼のダンスを見ていると、確かにタップの切れはイマイチの感があるが、シド・チャリシーとのダンスでは彼女を片腕で楽々(?)と支えており、このへんは流石です。

そのチャリシーは、いつもの表情の乏しさがニノチカ役にはもってこいという説もあるが、彼女の場合、それが普通すぎてガルボのように“笑わない”ことがギャグになっていないのが辛いところ。ただし、ソロで踊られる「Silk Stockings」の美しいバレエでは、彼女のクールな魅力が遺憾なく発揮されており、このダンスシーンは彼女にとって最良のもの一つだと思う。

また、「バンド・ワゴン」におけるナネット・ファブレイのように、コメディ・パートを請け負うジャニス・ペイジも頑張っているが、本作が公開される前年にはプレスリーの「Heartbreak Hotel」がビルボードで8週連続1位を獲得する等、当時においても時代は確実に変化していた訳であり、今となってみれば、アステアが歌って踊る「The Ritz Roll and Rock」の如き本作の意欲的な部分がかえって寂しさを誘うのも否めない。

ということで、MGMミュージカルの最後を飾る作品としてはアカデミー賞に輝く「恋の手ほどき(1959年)」を挙げるのが通例なんだろうけど、俺としては、シュヴァリエではなく、やっぱりアステアの出ている本作のほうがずっとそれに相応しいと思っている次第です。