巴里の空の下セーヌは流れる

1951年作品
監督 ジュリアン・デュヴィヴィエ 出演 ブリジット・オーベール、ジャン・ブロシャール
(あらすじ)
恋人を訪ねて田舎からパリにやってきたドニーズ(ブリジット・オペール)、スト参加のために自分の銀婚式に出られないエルムノー(ジャン・ブロシャール)、あがり性のためなかなか国家試験に受からない医学生のジョルジュ等々、パリで暮らす人々のある一日のエピソードを淡々と綴っていく….


デュヴィヴィエ作品をちょっと力を入れて見てみる特集の第一弾。

フランソワ・ペリエのナレーションで始まる本作は、今から数十年前にNHKの教育TVで1、2度放映されたのを見たことがある。エピソードの半分くらいは忘れていたものの、全体的なイメージは記憶していたとおりだった。

作品のスタイルとしては、数年前に公開された「クラッシュ(2004年)」と同じような作りであり、ある一日における何人かの登場人物の行動を並列的に描いている訳だが、その各人のエピソードが少しずつ関係し合い、全体としてパリという街の生きた雰囲気を表現している。

まあ、1件だけ殺人事件もあるんだけど、その他のエピソードには他愛のないものが多く、のんびりと見ていられるのがとても好ましい。フランス人自身が手掛けているため、決して観光映画にはなっていないんだけど、彼等がパリという街に対して抱いている“愛情”の何分の一かは我々異邦人にも確実に伝わってきた。

その殺人事件の被害者になるドニーズ嬢であるが、彼女は事故によって半身不随になってしまった恋人と別れ、別の男友達とのデートに向かう途中に通り魔による被害に合ってしまう。しかし、このエピソードから教訓的な意味を読み取る必要はなく、おそらく“パリという街の気まぐれの被害者”という理解で十分なんだろうと思う。

ということで、劇中で使われているシャンソンの名曲「巴里の空の下」は、記憶していたよりもややアップテンポ気味の演奏だったが、メロディの展開がドラマチックで本作に素敵な彩りを付け加えている。こんな曲を聴いていると一度くらいはパリに行ってみたくなるんだけど、今でもこんなのんびりムードは残っているのかなあ。