リヴィエラを撃て

読む本に困ったときは高村薫ということで。

英国、米国、中国そして日本の諜報機関によるスパイ合戦を描いた作品であり、物語の3分の2以上が北アイルランドを含む英国、残りが日本を舞台としている。まあ、スパイ物といっても、そこは高村作品ということで、個々人の超人的な活躍を描くというより、組織のしがらみの中で自分なりの“正義”を実現しようとする人たちの葛藤みたいなものが主要なテーマになっている。

したがって、前半の主役である若きテロリストのジャック・モーガンは、正確には主人公というより、そんな彼等の“正義”の象徴みたいな存在であり、彼を守るために、また、彼を守る者を守るために多くの人々が犠牲になる。なかでも、英国の諜報機関MI5のボスであるM・Gのとった行動は、同じオヤジ世代ということもあってか、とても感動的であり、珍しくも読んでいてちょっと涙ぐんでしまった。

ということで、最後まで残ったいくつかの謎がラストのある人との会話によってすべて明らかになるという構成は、なんかTVの2時間ドラマみたいでミステリイ作品としては明らかな失敗だと思うんだけど、例によってその失敗がほとんど読後の満足感にマイナスの影響を与えておらず、やっぱり高村薫という作家は凄いなあと改めて感心させられました。