1948年作品
監督 溝口健二 出演 田中絹代、高杉早苗
(あらすじ)
終戦から間もない頃の大阪。和子(田中絹代)は幼いわが子と出征した夫の帰りを待ちわびていたが、そんな彼女の元へ彼の戦死の知らせが届く。病気により子供も失った和子は栗山という男の秘書(実は妾)になるが、彼が彼女のアパートで妹の夏子(高杉早苗)と浮気をしている現場に遭遇し、怒った和子はアパートを飛び出してしまう….
溝口作品としては珍しく、終戦直後の売春婦の実態を扱った社会派的な作品。
DVDの特典映像で新藤兼人がこの時期の溝口に対するロベルト・ロッセリーニの影響について言及していたが、本作が公開されたのがデ・シーカの「自転車泥棒(1948年作品)」と同じ年ということもあり、相当に悲惨なストーリーはイタリアのネオレアリスモを連想させる。映像的にも、引き気味の構図に代表される彼のいつもの様式美は影を潜めており、その分、印象に残るようなシーンが見当たらないのはちょっと残念。
物語は、和子と夏子の姉妹、それに和子の義妹の久美子を加えた3人の女性の生き方を描いているんだけど、和子は売春婦、夏子は栗山に性病をうつされた上に妊娠・死産、久美子は不良学生に騙されて彼等のメンバーにということで、見事なくらい全員が不幸のどん底状態。
まあ、ラストでは、ヤケで売春婦になろうとした久美子を止めに入った和子が自分も足を洗おうと決意し、それを面白く思わない仲間たちと大立ち回りを演じた末、最後はステンドグラスに描かれたマリア像のアップで終わるんだけど、いくらイタリア映画の影響とはいえ、このエンディングはちょっと唐突過ぎて彼女らの救いにつながるような印象は薄い。
このDVDの宣伝文句によると、当時、田中絹代が売春婦役を演じたことが話題になったとのことであるが、彼女が売春行為をするシーンは一切描かれておらず、彼女の売春婦姿にも相当に違和感がある。まあ、公開当時39歳の彼女としては新たな領域への果敢な挑戦だったのかも知れないけど、中途半端の感は否めない。
ということで、ドキュメンタリーっぽい雰囲気が特色のネオレアリスモを意識したという割には演出も妙にドロドロしており、そんな意味でもやっぱり中途半端。まあ、この後、溝口はこういった傾向の作品は撮っていないようであるが、それは正解だったと思う。