夢

1990年作品
監督 黒澤明 出演 寺尾聰倍賞美津子
(あらすじ)
母親の注意を聞かずに狐の嫁入りを目撃してしまった少年時代の“私”の悪夢など、黒澤監督自身が見た夢の世界を8つのオムニバス形式で描く….


先日まで日経新聞で数回にわたり連載されていた黒澤の特集を読み、今まで見逃していた彼の作品を見てみる気になったのだが、これがその第一弾。

フェリーニを鑑賞したばかりということもあって、作品を見る前は黒澤の輪郭のはっきりとした演出が夢というテーマと上手くマッチするのかちょっと不安だったけど、まあ、その不安は半分的中といったところかな。

一番夢っぽかったのは、幼い黒澤少年が狐の嫁入り目撃してしまう夢。ああいうふうに見てはいけないものを“見つかったらどうしよう”と心配しながら見ている夢っていうのは、俺も子供の頃に見た覚えがある。その後の母親とのやり取りを含め、何かフロイト流に解釈できるのかなあって考えながら見ていた。

これに対し、後半になると次第にメッセージ色の強い夢が多くなり、あまり論理的な夢を見たことがない俺にはちょっと違和感が強い。美しい水辺の風景が印象的な最後の夢もとても良い雰囲気なんだけど、笠智衆扮する古老のあの長ゼリフは説教じみていてちょっといただけない。

それと、日経新聞に載っていたゴッホの麦畑の夢なんだけど、これはシスティーナ礼拝堂の「最後の審判」と同様、やっぱり見るべき場所(=映画館)で見ないと黒澤がこの映像にかけた執念は伝わってこないんだろう。これと桃畑の夢は是非とも映画館の大スクリーンで見てみたかったと思いました。

ということで、TV画面での鑑賞ではちょっと物足りなかったけれど、黒澤の原子力アレルギーが「生きものの記録(1955年)」の頃から全く変わっていないことが確認できたのは興味深かった。まあ、彼に言わせれば、核兵器原発の存在に無頓着なまま日々の生活を送っている俺達の方こそ異常なんだろうけどね。