祇園の姉妹

1936年作品
監督 溝口健二 出演 山田五十鈴、梅村蓉子
(あらすじ)
祇園の芸妓梅吉(梅村蓉子)のところへ木綿問屋の主人古沢が転がり込んでくる。彼の店が倒産し、家に居づらくなったからだ。梅吉は昔世話になった恩返しと喜んで古沢の世話を引き受けるが、そんな姉の気持ちが理解できない妹のおもちゃ(山田五十鈴)は、古沢を家から追い出すために姉に内緒で一計を案じる….


俺が生まれる20年以上も前の作品。最初、劣悪な録音状態と聞き慣れない京都弁のせいでセリフの内容すら十分理解できず、失敗したかなあって思いながら見ていたんだけど、一度物語に引き込まれてしまうとそんなことは全く問題にならず、ちゃんと最後まで見終わることができた。

おもちゃ(すごい名前!)は、姉の梅吉とは異なってとてもドライな性格の持ち主。金の切れ目が縁の切れ目ということで、一文無しになった古沢を上手く言いくるめ姉に無断で家から追い出してしまい、その上なんと後釜の新しい旦那まで見つけてくる。全体の3/4くらいは、そんなおもちゃの機転の利いた活躍ぶりをちょっとコメディータッチにテンポ良く描いていてとても楽しい。

その後、再会した古沢の口から妹の仕打ちを聞かされた梅吉が家を出ていくあたりからちょっと雲行きが怪しくなるんだけど、それでも“まあ、ここは行きすぎたおもちゃの行動にお灸をすえるようなエピソードで丸く収めるんだろう”と思いながら見ていたんだが、これが大ハズレ。

物語はここから俺のそんな甘っちょろい予想をはるかに上回る悲劇的な展開を見せ、最後は病院のベッドの上で号泣するおもちゃとその傍らで茫然と打ちひしがれる梅吉の姿で映画は終わる・・・。うーん、最初のころの雰囲気とは打って変ったこの社会派ドラマ顔負けのラストは、ちょっと衝撃的です。

この芸妓のおもちゃに扮するのは、当時19歳の山田五十鈴。役柄のせいか、ちょっと他の女優さんとは異なった現代的なイメージで、画面に登場するなり大胆なスリップ姿(寸胴!)と大あくびで観客を驚かせてくれる。演技やセリフ回しも歳に似合わぬ堂々とした出来で思わず感心してしまいました。

ということで、おもちゃとの対比で情に厚い好人物と見られがちな梅吉を“男に頼らなければ生きていけない女”として断罪する溝口の辛辣なフェミニストぶりが十分に発揮された作品で、見ていてとても面白かった。それにしても、当時の男たちはこの作品をどんな気持ちで見ていたのか気になるなあ。