殺陣師段平

1950年作品
監督 マキノ雅弘 出演 市川右太衛門月形龍之介
(あらすじ)
新国劇を旗揚げしたばかりの澤田正二郎市川右太衛門)は、剣劇物に活路を見出そうと次の出し物に「国定忠治」を選ぶ。殺陣師上りでうだつの上がらない頭取の市川段平(月形龍之介)は、やっと自分の本領を発揮する好機がきたと張り切るが、歌舞伎出身で型にはまった殺陣しか知らない彼には澤田の主張するリアリズムの意味が理解できない….


最近、何故かあちこちで名前を耳にするマキノ雅弘の監督作品。脚色は黒澤明が担当している。

その後いろいろあって、遂に中風で寝たきりになってしまった段平が、澤田が中風の国定忠治を演じるという話を聞き、病気の身をおして最期の殺陣を付ける、というのがラストのクライマックス。相当有名なお話しなので、俺もこのへんの事情は知っていたが、本作ではこの最期の殺陣を段平が澤田に直接付けるのではなく、病床の段平が娘おきくの前で演じて見せ、それをおきくが澤田に伝授するというストーリーになっている。

まあ、寝たきりという段平の状態を考えれば、これが最も“リアル”な展開なのかもしれないんだけれど、そこに素人同然のおきくが介在してしまうのは見ていて興ざめの感は否めない。ここは無理をしてでも段平が直接澤田に殺陣を付けるという展開にして欲しかったところであるが、これって原作や黒澤の脚本ではどうなっていたんだろう。(実は、マキノ雅弘は本作を「人生とんぼ返り(1955年)」という題名でセルフリメイクしているが、どうやらそちらには段平が直接澤田に殺陣を付けるシーンが存在するらしい。)

オープニングクレジットでは澤田役の市川右太衛門の名前が最初に表示されるが、彼の出番はあまり多くなく、主役は誰が見ても段平役の月形龍之介。しかし、作中、新国劇の舞台で見せてくれる右太衛門の立ち回りはスピーディ、かつ、迫力十分であり、その貫禄には文句の付けようがない。また、段平の恋女房お春を演じる山田五十鈴が、いつもながら素晴らしい演技を見せてくれる。

ということで、改めてマキノ雅弘の作品を見てみた訳であるが、早撮りで有名ということもあってか、芝居やセリフの間が不自然に感じられる個所が散見される等、ちょっと演出が荒いような印象を受けた。ただし、彼のそんな自由な演出が、本作に見られるような俳優の伸び伸びとした演技を引き出していた可能性もあり、まあ、その功罪について即断は禁物なんでしょう。